第44話
最初にピッピッピッと規則正しい機械音が聞こえて来た。
次に体の感触があり、目が開いた。
それはとても眩しい世界で、開いた目をすぐに閉じてしまった。
しかし、ついさきほど戻って来た意識はしっかりとしていて手足に感じている感触が、柔らかな布であることがわかった。
そうしている間に、機械音の他に人の話声が聞こえてくるのがわかって、あたしは再び薄く目を開いた。
今度はちょっと頑張って周囲を見回してみる。
すると、あたしが寝ているベッドの横にお母さんが突っ伏して居眠りをしているのが見えた。
椅子に座り、ベッドの脇に両手を枕のように敷いて眠っている。
その背中は規則正しく上下していた。
会話の正体はベッドのすぐ横に設置されたテレビだということがわかった。
画面上には見慣れた朝のニュースキャスターがいて、毎日のニュースを読み上げている。
あたしはしばらく部屋の様子を眺めて時間を過ごした。
お母さんを起こそうかとも思ったけれど、心地よく眠っているので可哀想だ。
それに、起き抜けのせいか体の力もでなかった。
ともすれば、また深い眠りについてしまいそうだ。
だけどあたしはどうにか目を開けていた。
見たところここは病院で、あたしは入院中みたいだ。
だけどどうしてだろう?
あたしはついさっきまで2年A組の教室にいて、みんなと話をしていたはずだ。
その時には体は自由に動いたし、ピンピンしていたのに……。
そんなことを考えていた時だった。
不意にお母さんが身動きをして目を開けた。
「おはよう」
そう声をかけてみると、自分の声がやけに掠れていることに気が付いた。
しばらく声を出していなかったときみたいな声だ。
「珠!?」
目を開けているあたしを見て、お母さんは勢いよく立ち上がってあたしの体を抱きしめた。
「良かった! 本当に良かった!」
何度も良かったと繰り返し、ナースコールを押す。
その後は担当医が病室に来て色々な質問をされ、聴診器を当てられ、なんだか慌ただしい時間が過ぎて行った。
そうこうしている間にあたしの体も随分しっかりと目が覚めて来て、上半身を起こせるようになっていた。
「何か、食べたい物や飲みたい物はある?」
お母さんにそう聞かれたので、あたしは冷たい紅茶を頼んだ。
お母さんは娘にたのまれ事をされたのが嬉しいようで、財布を持ってすぐに病室を出て行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます