第43話

恵里果のことは親友だった。



高校の中で1番の親友だと言ってもいいくらい、大好きだった。



それなのに……。



「ご……めん、恵里果……」



あたしはその場にしゃがみ込んで恵里果に手を伸ばす。



しかし、その手は振り払われてしまった。



「触らないで!」



と叫ぶ恵里果に、あたしの胸は押しつぶされてしまいそうだ。



「たったそれだけのことで、珠を事故に遭わせたのかよ」



そう言ったのは吉之だった。



だけど、それは吉之が絶対に言ってはいけない言葉だった。



「あたしは……ずっと吉之のことが好きだった! それなのに吉之はずっと珠のことばかり見てるから!!」



あたしは涙をぬぐい、吉之を見上げた。



吉之は気まずそうに視線を逸らせている。



「ずっとって、嘘でしょ……」



あたしの小さな呟きは、みんなの泣き声によってかき消されてしまった。



「あんたさえいなければ、吉之はあたしのものになるのに! 試合だって、恵一さえいなければ吉之がトップになれるのに!!」



恵里果は駄々っ子のように泣きじゃくり、床を拳で殴りつけた。



何度も何度も繰り返して。



ただ好きだった。



それだけの気持ちがここまで人間を暴走させたんだ。



「あたしが悪い。恵里果の一番近くにいたあたしが、恵里果の気持ちに気が付いていなかったから、今回の事件が起こった」



あたしは泣きながらそう言い、黒板に自分のしてしまった罪を書き記した。



絶対に消えないよう、何度も何度も文字の上をなぞり、大きく、太い文字で書く。



《恵梨佳の苦痛に気が付かなかった》



あたしがその文字を書き終えた瞬間……。



カチッという、あの音が教室に響いていたのだった……。

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