第42話

恵里果とあたしの家は徒歩5分ほどの距離にある。



しかし、約束場所のコンビニまでは20分はかかるのだ。



わざわざ遠くのコンビニで待ち合わせることが、その時の違和感として残っていたのだ。



けれど、その理由を恵里果に聞いたりしなかった。



会って聞けばいいことだと思ったから。



でも……。



「その待ち合わせ場所に行く途中で、恵一のお父さんが運転する車に偶然轢かれた」



そう言い、目を開けた。



明るい世界に少しメマイを感じたが、恵一の優しい顔を見るとそれもすぐに消えて行った。



みんな、もうあたしを見ていなかった。



輪の中心に立っている恵里果に視線が向いている。



恵里果は青ざめ、小刻みに震えながら立ち尽くしている。



一体なにがあったんだろう?



「珠の証言が本物なら……珠が轢かれたのはは偶然じゃない。必然的に引き起こされたんだ」



恵一がゆっくりと立ち上がり、恵里果へ向けて言った。



その瞬間、恵里果が体をビクリと震わせた。



「どういうこと?」



あたしは恵一を見つめて聞く。



「恵里果と吉之の父親は元々グルで、俺を試合に遅らせようとしていた。どこで、どんな交通事故が起こるのか、予め知っていたんだ。そのタイミングで珠をわざわざ遠いコンビニまで誘導した。事故が起こる横断歩道を渡ることを想定して」



恵一が話し終えた瞬間、カチッと時計の針が進む音がした。



恵里果が「ひっ!」と、ひきつった悲鳴を上げる。



「ほ、本当にあの道を通るなんて思ってなかった!!」



恵里果が叫ぶ。



その声が、どこか遠くで聞こえてきているような気がした。



「あの道には歩道橋もあって、横断歩道を渡るには2度も信号を待たなきゃいけないでしょう!? だから、きっと歩道橋を歩くと思った!」



「だけど通るかもしれないとわかってたんだろ!」



恵一の怒鳴り声が恵里果の言い訳をかき消す。



恵里果は目を見開いたまま、その場に崩れ落ちた。



「だって……! いつだって珠ばっかりが好かれてる!」



子供のようにしゃくり上げて泣き始める恵里果にあたしはかける言葉を見つけることができなかった。



自分だけが好かれているなんて、そんなつもりはなかった。



だけど恵里果から見れば、あたしはいろんな人から愛情を受けているように感じられたのだろう。



「あたしは引き立て役ばっかり!! 吉之まで、珠のことを……!!」



恵里果の悲鳴には強い憎しみが籠っていた。



あたしはハッと息を飲んで吉之へ視線を向ける。



吉之は立ち尽くしたまま、恵里果を見つめていた。



恵里果がそんな風に感じているなんて考えたこともなかった。



あたしと一緒にいることで、恵里果は劣等感を抱えてきたのだろう。



それなのに、あたしはなにも気が付かなかった!



気が付けば、あたしの視界は滲んで大粒の涙が流れ出していた。

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