第40話

その疑問を解消する暇もなく、吉之は学生服のポケットから学生証を取り出し、貴央に近づいて行った。



「貴央がカラーボールを渡した相手は、この男で間違いないか?」



学生証の中には誰かの写真が入れられているようだけど、ここからじゃ確認できなかった。



「あ、あぁ。この人で間違いないよ!」



貴央が大きく頷いた時、また時計の針が進んだ。



「それなら、歩道橋からカラーボールを投げ落としたのは俺の父親で間違いないと。理由は、俺を大会で勝たせるためだ」



吉之がそう言うと同時にあたしたちへ向けて深く頭を下げて来た。



「本当に、申し訳なかった!!」



大きな声で言い、そのまま床に膝をついた。



頭を床にこすりつけ、必死で謝罪を繰り返す。



「やめてよ吉之!」



恵里果が止めようとするが、吉之が恵里果の体を突き飛ばしていた。



「この空間ができあがったのは、全部俺のせいだったんだ!」



「吉之……」



あたしは呟き、視線を逸らせる。



みんなの前で土下座をしている吉之を見ていられなかった。



吉之本人はなにもしていないのに、こんなことをする必要はない。



しかし、そう言っても吉之は土下座をやめないだろう。



ここで止めに入れば、吉之は余計に苦しむことになる。



「事故の原因がわかったなら、もうそれでいいじゃないか」



そう言ったのは恵一だった。



「ここにいる全員が事故に関係していて、それぞれがやってしまった罪もわかった。幸いにも俺と、運転していた父親は無傷だったし、珠もこうして元気になったんだ。許してやれるよな?」



恵一に言われて、あたしはすぐに頷いた。



正直、あたしはまだ事故の記憶を取り戻していない。



それでもみんなが懸命に事故の詳細を探ろうとしてくれている。



その気持ちだけで、嬉しかった。



気分もスッキリしたし、これで日常生活へ戻ることができるのなら、無駄な時間じゃなかったと思える。



「あのさ……」



おずおずと声を出したのは真弥だった。



真弥はいつの間にかドアの前まで移動している。



「……水をさすようだけど、まだドアは開かないみたいだよ?」



震える声でそう言った。



「え、どうして!?」



あたしはすぐにドアにかけより、取っ手に手をかけた。



しかし、真弥が言うようにドアはまだ開かない。



事件の真相はわかったはずなのに、どうして!?



「今までの話を黒板で確認したんですけど、残るは珠先輩じゃないですか?」



一輝の言葉にあたしは「え?」と、目を見開いて動きを止めた。



「真弥先輩と貴央先輩はカラーボールの入手と販売。俺と由祐は更衣室での話。恵里果先輩は俺たちの話を吉之先輩の父親に暴露。恵一先輩は父親の車で事故。吉之先輩は、父親が実行犯。残っているのは、珠先輩だけですよ?」

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