第38話
「あたしが、1年生の話を偶然聞いた」
全員の視線が恵里果へ向かう。
「その話を聞いて、お前はどうした?」
恵一が聞く。
しかし、恵里果は答えなかった。
腕を組んでそっぽを向き、ぶぜんとした態度を取っている。
きっと恵里果は1年生たちの話を聞いた後、なにかをしたのだ。
それが事故に関わってきている。
早く聞いて終わってしまいたいという気持ちと、聞きたくないという気持ちがせめぎ合う。
「どうしたかって聞いてんだよ!」
恵一が怒鳴り声をあげ、空気が震えた。
「なんで言わなきゃいけないの?」
恵里果の冷たい声に、なぜだか胸が痛んだ。
恵里果とは高校に入学してから仲良くなって、1番の友達のはずだった。
でも、こんな恵里果はいままで見たことがなかった。
「もしかして、吉之先輩の父親に話したんですか?」
1年生の一輝がジッと恵里果を見つめてそう聞いた。
恵里果は咄嗟に一輝から視線を逸らせている。
「どうして俺の父親なんかに……?」
吉之本人にそう聞かれると、恵里果は大きく息を吸い込んだ。
しかし、なかなか二の句を継ごうとしない。
「恵里果お願い。全部話して」
「うるさい!!」
あたしの質問にはすぐに、怒鳴ったように言い返す恵里果。
それでもあたしはめげなかった。
もう少しで事件の真相に近づけそうなのだ。
ここでひるんでいる場合じゃない。
あたしは恵里果に一歩近づいた。
恵里果はうっとうしそうな表情をあたしへ向けている。
「俺を勝たせるためだった……とか、言うなよ?」
吉之が鋭い視線を恵里果へ向けて言い放った。
恵里果の肩が微かに震える。
「恵一が試合に遅れたら、俺がトップを取れる。そんなことのために事故を起こさせるように、俺の親父と一緒に企んだんじゃないよな?」
吉之は願うような表情で恵里果に聞いている。
恵里果はうつむき、答えない。
しかしカチッ!と大きな音がして時計の長針が進んだことで、恵里果の返事を聞かなくても事実だということがわかってしまった。
自分の心臓が早鐘を打ち始めるのを感じていた。
呼吸が乱れ、メマイがして机に手をついた。
恵里果は1年生2人の会話を聞き、それを吉之の父親に話した。
吉之の父親は貴央に声をかけ、カラーボールを入手するように頼んだ。
その結果事故が起こったのだとしたら、事故の発端は……。
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