第37話
「でも、更衣室を出た時に誰かが走って行くのが見えたんです。後ろ姿だったから誰だかわからないけれど、女子生徒でした」
由祐がそう言った瞬間、カチッと音がして時計の長針が動いていた。
その音に一瞬息を飲む。
まさか、このタイミングで時計の針が動くなんて思っていなかった。
他のみんなも驚いて目を丸くしたり、口をポカンと開けたりしている。
「女子生徒……」
恵一は呟き、あたしへ視線を向けた。
あたしは無意識の内にあとずさりをしていた。
そして、教室内を見回す。
この教室内にいる女子生徒は……。
あたしと、真弥と、恵里果の3人だけだ。
あたしは事故の被害者で、真弥はコンビニでカラーボールを盗み出して……あと1人は……。
そう考えたとき、視線が恵里果へと向いた。
ゴクリと唾を飲み込んで「恵里果は事故の日、あたしとの約束場所にいたんだよね?」と、質問する。
「そうだよ」
「証拠は?」
恵一がすぐさま割って入って来た。
「証拠って言われても……」
恵里果はとまどったように視線を漂わせる。
「証拠なんて、咄嗟には出て来なくて当たり前だよ!」
つい、恵里果を庇うように声を大きくしていた。
でも、嫌な予感は胸の中に渦巻いていて、もしかして恵里果こそ、この事故に大きく関係しているのではないかという疑念が膨らんで行く。
「じゃあ、キックボクシングの更衣室付近にいたことは?」
そう聞いたのは吉之だった。
吉之からの問いかけに、恵里果はビクリと肩を跳ねさせた。
徐々に顔色が悪くなって行き、今にも倒れてしまいそうになっている。
「俺たちの会話を聞いていたのは、恵里果先輩ですね?」
一輝に言われ、恵里果は下唇を噛んで俯いた。
完全な肯定だった。
「偶然話を聞いちゃっただけなら、何の問題もないじゃん。ね?」
あたしは恵里果の腕を掴んでそう言った。
けれど……恵里果はあたしの腕を振り払ったのだ。
そして鋭い眼光でねめつける。
あたしは小さく悲鳴を上げて恵里果から数歩離れた。
こんな恐ろしい顔をしている恵里果を始めて見た。
ゾクリと背筋が寒くなるのを感じる。
「なにがあったのか、ちゃんと話してくれ」
吉之にそう言われ、恵里果がゆっくりと顔を上げた。
その顔はもう青ざめてはいなかった。
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