第36話~珠サイド~

「1年生2人は、なにか心当たりがないの?」



あたしがそう訊ねると一輝と由祐は眉間にシワを寄せて考え込んでしまった。



「俺たちと先輩たちとの接点は、やっぱりキックボクシングです。でも、それがどう関係しているのか……」



一輝はそこまで言って黙り込んでしまった。



なにかなかったか必死で考えているけれど、思い当たる事がないみたいだ。



それでもなにかあるはずだ。



事故に関係するななにかが。



恵一は無言でジッと2人の1年生を見つめていた。



その目は試合のときと同様に、決してあきらめないと言う強い決意を感じさせた。



「なにも関係ないとは思うんですけど……」



ゆっくりとそう言ったのは由祐の方だった。



一輝が由祐へ視線を向けて、少し驚いたように目を開いた。



「ほら、俺たち更衣室で色々話をするだろ?」



由祐にそう言われ一輝は頷く。



「あ、そういえば気になることがあったっけ」



由祐の一言で、一輝も何か思い出したようだ。



あたしと恵一は知らず知らず身を乗り出して、2人の次の言葉を待った。



「俺たちの話題は専らキックボクシングで、恵一先輩と吉之先輩についての話はよくしてました」



由祐がそう言うと、一輝が頷いて次の言葉を続けた。



「俺たち部活が終って着替えてる時に、次の試合についての話をよくするんです。恵一先輩と由祐先輩、どちらが1位を取るかって」



それはごく普通の会話だった。



部活をして試合があれば、誰でもするような会話だった。



特に試合が近づいてくるとその1位を取るのが誰なのか気になって当然だった。



「その時、もしも恵一先輩が遅刻してきたりすれば、吉之先輩がトップになるかもしれないって、言いました」



一輝は吉之から視線を外して言った。



その声は恐れをなしていて、少し震えていた。



今まで忘れていたくらい些細な会話。



しかし、奇しくも同じ出来事が起こってしまったのだ。



そして、後輩から見ても恵一と吉之の実力は一目瞭然だったということだ。



しかし、それを聞いても吉之は動揺を見せなかった。



自分の実力は自分が一番よく理解している。



そう言いたげな表情で真っ直ぐに1年生を見つめていた。



「今は俺の方が弱いけど、いつかは追い抜いてみせるよ」



そう言って恵一へ笑いかけている。



「今はそういう話じゃないだろ」



恵一は少し笑顔を浮かべて、そう言った。



「それで、2人とも恵一が遅刻するように実行に移したの?」



真弥の、衣着せぬ言葉に1年生2人は同時に首を振った。



「そんなことはしてません!」



今までで分かっていることを照らし合わせてみても、1年生の2人が犯人じゃないことはわかっていることだった。



少し空気が緩んだことで、真弥はわざと言ってみせたのだろう。

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