第35話~珠サイド~

だけど、現段階で一番犯人に近いのは吉之なのだ。



可哀想だけれど、疑ってかからなければならない。



教室内に恵里果の泣き声がこだまし始めた時、「あ……」と、貴央が小さく声をあげた。



「どうした貴央?」



恵一が聞く。



「いや、もしかしてあのオッサンって吉之の父親だったんじゃないかと思って」



貴央の言葉に「え……?」と、小さく呟く。



恵里果の声が瞬間的に聞こえなくなった。



見ると、恵里果はポカンと口を開けて貴央を見つめていた。



「動機は息子を大会のトップにさせること。50代なら年齢的にも吉之の父親であっておかしくないだろ」



貴央が更に言葉を続けると、吉之はフラリとよろめきながら立ち上がり、近くの椅子に座った。



「俺のオヤジが、歩道橋からカラーボールを投げた……?」



吉之が呟いた瞬間、時間が5分進んだ。



その瞬間吉之が驚愕の表情を浮かべた。



この世のものではない、とてつもない化け物を見てしまったような表情。



みんな、呼吸をすることも忘れて蒼白顔の吉之を見つめていた。



「ド、ドアを確認しますね」



息苦しさを回避するように1年生2人がドアに駆け寄った。



ガタガタと音はするものの、ドアも窓もびくともしない。



床と天井にも、相変わらず得体の知れない岩のようなものが鎮座していた。



「犯人がわかったのに、ドアは開きません!」



由祐が苦し気な声で報告する。



あたしは重たい体を動かして街が見下ろせる窓へと移動した。



窓の外を確認してみても、人は1人も見られない。



状況は変わっていないみたいだ。



「なにも変化なし……か……」



ということは、まだ事故の詳細がなにも解決していないということなんだろう。



もっともっと、私たちが知らない部分が隠されているのだ。



「ここにいる全員が事故に関係しているとすれば、全員が話し終わらないと出られないのかもね」



あたしは教室中央へ戻り、面々を見回して言った。



「でも、俺たちが事故について知ったのは試合が始まってからでした。恵一先輩がなかなか来ないから先生が連絡を取って、その時始めて知ったんです」



一輝が早口に言い、由祐が頷いた。



2人とも試合に参加するため会場にいたのだから、当然のことだった。



「その時、吉之は一緒にいたか?」



恵一の問いかけに、一輝と由祐はよどみなく頷いた。



「いました。俺たち全員で恵一先輩を待っていたんですから」



由祐の言葉に椅子に座っていた吉之が少しだけ顔を上げた。



自分自身の潔白は証明された。



しかし、父親が事故を引き起こした犯人だったということが露呈してしまったのだ。



その心中はとても複雑だろう。



それでも、あたしたちは立ち止まらず、話を続けなければならない。



吉之からすればもう聞くもの嫌だろうが、我慢してもらう他なかった。

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