第33話~珠サイド~

故意に事故を起こさせたのだとすれば、それには必ず理由がある。



「恵一はあの日、キックボクシングの試合だったんだよね? だけど事故があったから、試合は休んだの?」



そう聞いたのは真弥だった。



真弥は今まで隠していたことを話したせいか、今はスッキリとした顔をしている。



「あぁ。試合所じゃなくなって欠場になった」



そう答えて下唇を噛みしめた。



キックドクシングでプロを目指している恵一からすれば、相当悔しかったのだろう。



その気持ちは、特に夢を持たずにここまで来たあたしには計り知れなかった。



「もしかして、それが狙いだったりしてな」



そう言ったのは貴央で、視線は吉之へ向けられている。



あたしは貴央に連れられるようにして吉之へ視線を向けていた。



吉之はさっきからずっと無言のままあたしたちの会話を聞いているだけだった。



今自分の名前が出されても、ほとんど反応を示さない。



もしも後ろめたい気持ちがあるのなら、つい反応を見せていてもおかしくはない。



「そんなの関係ないと思う」



代わりに強い口調でそう言ったのは恵里果だった。



恵里果は吉之の前に立ち、みんなの視線から吉之を守っているように見えた。



その瞬間、恵里果の気持ちが見えてしまった。



恵里果自身も、きっと普段は誰にも気が付かれないようにしていただろう、その気持ち。



それは、この空間にいることでどんどん露呈してきてしまっていた。



「恵里果は吉之のことが好きだから庇うんだよね?」



あたしはすかさず言った。



自分が言われたことをそのまま言い返しただけだ。



「はぁ? 関係ないし」



恵里果があたしを睨み付けてくるが、それは肯定しているのと同じだった。



「関係ないなんて嘘。さっきから吉之のことばかり気にかけてる」



「だから何? 珠だって同じじゃん!」



恵里果が声を荒げてそう言った。



確かにそうかもしれない。



だけどさっきも感じたように、この空間でのえこひいきは危険だ。



「恵里果、もう少し冷静になって考えようよ。好きとか嫌いとか、そんな感情で判断してたら、この教室から出られないままだよ」



「珠に偉そうなこと言われたくないけど」



恵里果は相変わらず強い口調で言い返して来る。



しかし、その声はとても小さかった。



あたしの意見が正しいと思ってくれているからだろう。



そんな恵里果の反応に少し安堵したとき、真弥が貴央の前に出た。



「吉之って毎回2位か3位だよね?」



真弥が吉之へ向けて質問する。



それはあたしも知っていることだった。



恵一がいる限り吉之は1位になることはできないと、誰もがコソコソ噂していることだったからだ。



「恵一は誰かに恨まれていたわけじゃなくて、妬まれていたんだよ。試合で遅刻すれば無条件で失格になるとわかっていたから、事故を起こさせた……」

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