第32話~珠サイド~
「だって、恵一は今あたしたち全員を犯人扱いしてるんだよ!?」
恵里果が叫ぶ。
「そうだね。それはあたしもヒドイと思うよ。恵一、まずは恵里果に謝って」
恵里果の体を抱きしめたまま、あたしはそう言った。
恵一は面倒くさそうに大きなため息を吐きだす。
「傷つけたなら謝る。でも、間違えたことをしているとは思っていない」
キッパリと言い切る恵一。
やっぱり、言い方にはトゲがあった。
でも、一旦謝ってくれたおかげで教室内の張り付けた空気が少しだけ緩んだ気がした。
「恵一も、必死にここから出る方法を探してるんだよ」
あたしは恵里果へ向けてそう言った。
恵里果の気持ちを静めるために行った言葉だったのだけれど……。
「珠は恵一のことが好きだからそんな風に考えるんでしょう?」
そう言われ、あたしは次の言葉を失ってしまった。
一瞬、頭の中が真っ白になってなにも考えられなくなった。
みんなが静まり返り、あたしに視線を向けているのがわかった。
咄嗟に俯いてみんなの視線から逃れる。
恵里果の言う通りだった。
あたしは恵一のことが好きだ。
だからつい、恵一を庇うような事ばかりを言ってしまう。
この空間で目覚めてからはそうならないように気を付けていたのに、バレてしまっていたなんて……。
この場所でえこひいきは危険だ。
貴央と真弥が2人して口をつぐんでいたように、いつまでたってもここから出られなくなる可能性を増やしてしまうだけだった。
「今、そんな話は関係ないだろ。珠を責めるなよ」
静かな恵一の声が聞こえてきて、あたしはそっと顔を上げた。
「恵一も珠のことが好きだもんね。珠が事故に遭って入院してから、毎日病院に行ってたの知ってるよ」
恵里果の言葉にあたしは目を見開いた。
今の話は本当だろうか?
恵一も、あたしのことが好き……?
「事故を起こしたのは俺の父親だ。お見舞いに行くのは普通だろ」
恵一は強い口調でいい返しているが、その頬が少しだけ赤く染まっていることに気が付いて心臓が跳ねた。
まさか、恵一は本当にあたしのことを……?
そこまで考えて、強く左右に首を振る。
今はそんな話をしている場合じゃなかった。
「話を元に戻そうよ。狙われたのが恵一だとしたら、その動機が気になる」
あたしは早く口に言った。
早くこの場所から出ないと、恵一の気持ちを確かめることだってできない。
それに、事故に関する話の中で動悸の部分はまだ出てきていなかった。
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