第30話~珠サイド~

力が抜けた貴央はその場にしゃがみ込み、真弥がその体を抱きしめた。



真弥は鼻水をすすり上げて「ごめんね珠、嘘ついてて……」とあたしを見上げてきた。



まだ泣いているが、その表情はどこか清々しさも兼ね備えている。



貴央のやったことをに気がついてから、きっと、ずっと誰かに言いたくて言えなかったのだろう。



今ようやくその呪縛から解放されたのだ。



「あたしに謝っても困るよ。狙われたのは恵一なんだから」



真弥からの謝罪に、キツイ口調で返事をする。



ただのお小遣い稼ぎが、人の命を危機にさらしたのだ。



いくら知らなかったとはいえ、その事実は変わらない。



「ごめんね恵一。あたしたち、本当になにも知らなくて」



真弥の言葉に恵一は返事をしなかった。



直接的に事故に関係していなくても、貴央と真弥の2人が密接に関係していたことがショックだったのだろう。



「カラーボールを渡したオッサンはどんな感じだった?」



恵一は貴央へ向けて聞いた。



「さっきも言ったけど、知らないオッサンだ。本当なんだ!」



「違うよ貴央。恵一が聞いてるのは相手の容姿だよ」



あたしは横からそう言った。



誰だかわからなくても、見た目を覚えていれば特定できる可能性はある。



「あぁ……。50代くらいに見えた。筋肉質で、トレーニングとかしてそうな感じだった」



貴央の言葉に恵一は考え込んだ。



自分の知り合いに当てはまる人物がいないか、思い出してるようだ。



あたしも、自分の記憶をフル動員して考える。



しかし、筋肉質な男性なんてあたしの知り合いには1人もいなかった。



「俺はオッサンに恨まれるような事なんてしてない!」



途端に恵一がそう怒鳴り、椅子を蹴り上げていた。



「恵一大丈夫か?」



近くにいた吉之が心配そうに声をかけている。



「くそっ! なんで、俺が……!」



冷静に分析していたように見えるけれど、恵一もまた恐怖と大きなストレスを抱えてこの教室にいたのだ。



恵一はその場にしゃがみ込み、両腕で頭を抱えると唸り声を張り上げた。



それで少しでも恵一の気が晴れるのならと願う。



「結局、このメンバーがここに集められたのは、全員が事故に関係しているからってことでしょうか?」



そう言ったのは1年生の一輝だった。



恵里果が「え?」と目を見開く。



「だって、学年もバラバラ、クラスもバラバラでしょう? ここで初めて知った先輩もいるし」



一輝は探偵のように額に指をあてて言う。



「事故に関係している人物が集められるのなら、恵一のお父さんがいないのは不自然だってば」



前回も話したが、事故の当事者がいないのだから、事故に関係しているとは言い切れない。



「じゃあ、どうしてこのメンバーなんだろう」



そう言ったのは真弥だった。



涙を浮かべたままで改めて8人全員を見回している。

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