第29話~珠サイド~

現在。



「俺が真弥にたのんでカラーボールを持って来させた」



貴央の言葉にあたしは目を見張った。



「どうして貴央が!?」



「勘違いすんなよ。俺はカラーボールを持って来させただけだ。車に向かってぶつけたりなんてしてないからな!」



貴央が慌てた様子でそう言った。



「じゃあどうして最初嘘をついたんだよ! お前が犯人だからだろ!」



カッとなった恵一が貴央の胸倉を掴む。



もう片方の手は握り拳が作られていた。



今にも殴り掛かりそうになったとき、真弥が恵一を止めに入った。



「本当に違うの! 午後から貴央に合った時、貴央はカラーボールを売った後だった!」



そう言った後、ハッとしたように息を飲む真弥。



視線が映ろに漂い、そして床へと注がれる。



「売った……? 売ったってなに!?」



あたしは真弥を見つめてそう聞いた。



「真弥、お前知ってたのか……」



貴央は恵一から離れ、唖然とした表情で呟く。



真弥は小さく頷いた。



その肩はまた小刻みに震え始めている。



「……そうだよ。木曜日の放課後、1人で帰ってる途中に知らないオッサンに声をかけられたんだ。誰にもバレないようにカラーボールを持って来てくれれば、1つ1万円で買うって」



貴央が大きく息を吐きだして言った。



「真弥にはストーカー退治のために必要だって嘘をついて、持って来させた」



「本当なの真弥?」



恵里果の問いかけに、真弥は頷いた。



「だけど、デートの最中に気が付いたの。その日の貴央はやけに羽振りが良くて色々とお後手くれたからおかしいなって思って……。それで思い返してみたら、カラーボールを持ってきて欲しいとか、妙なこと言っていたことに思い当たったの」



真弥も貴央も、もう嘘はついていなさそうだ。



この2人はデート代のためにカラーボールを売っただけ。



それ以上のことは、本当になにもしてないのだろう。



「そのオッサンって誰だよ」



恵一が声を震わせながら聞いた。



少しずつ、事故の真相に近づいている手ごたえを感じる。



その分、真実を知りたくないと思う恐怖心も湧き上がってきていた。



「知らないオッサンだった。土曜日にカラーボールを渡した時も、予め時間と場所を決めておいたから連絡先の交換はしなかったし、お互い名前も聞いてない」



貴央が弁解をするように早口になった。



「本当だろうな!? また嘘をついてたらお前――!」



恵一が右手で拳を握りしめる。



「貴央はもう嘘はついてないよ!」



真弥が叫んだと同時に、時間が5分進んだ。



長針が30分の所で止まる。



それを見た恵一はゆるゆると息を吐きだして、手の力を緩めた。

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