第25話

立ちあがり、スカートのホコリを払って言う。



「真弥が怖がってるだろ。近づくなよ」



「何かを隠してるんでしょ!?」



貴央の威圧的な声色にひるんでしまいそうになったが、あたしはジッと貴央を睨み付けた。



貴央の後ろで真弥がしゃくり上げながら必死になにか言おうとしている。



あたしは視線を真弥へ移動させ、そして優しい視線を送った。



真弥はなにかを隠している。



だけど、隠していることが限界なのだ。



それなら全部話してしまえばいい。



あたしの視線が真弥へ向いていることに気付いた貴央が振り向いた。



その瞬間、真弥が怯えた表情になる。



貴央が真弥を抑制しているのがわかった。



「真弥、言いたいことがあるのなら言って」



あたしは一歩前に踏み出してそう言った。



「だから、言いたいことなんてなにもない」



貴央がイラついた口調でそう言った。



「貴央には聞いてない! 邪魔しないでよ!」



つい怒鳴ってしまったその時だった。



真弥が覚悟を決めたように口を開いたのだ。



誰もが真弥の言葉に耳を澄ませているのがわかった。



真弥の一語一句を聞き逃さないとするように、教室中が静まり返る。



聞こえてくるのは、自分たちの呼吸音だけだった。



「嘘なの! 本当はあの日、あたしは午前中だけバイト先のコンビニに居た!」



真弥が叫んだ瞬間、カチッ!と音がして長針が動いき、25分で停止した。



全員が息を飲んで真弥を見つめる。



貴央が大きなため息を吐きだし、両手で顔を覆っていた。



たしか、真弥と貴央は1日デートをしていたと言っていたはずだ。



でも本当は違った。



真弥は午前中、コンビニでアルバイトをしていたのだ。



たったそれだけの真実で、時計の針は進んだ。



「どうしてそんな嘘をついたの?」



あたしは眉を寄せてそう聞いた。



貴央はもう、あたしの邪魔をしてこない。



観念したようだ。



「それは……」



そこまで言って真弥は言葉を止めた。



チラリと貴央を見上げている。



ここからでは貴央の表情は確認できなかった。



「あの日、あたしは……」



そこまで言い、真弥は口を閉じてしまった。



細かく体を震わせているのがわかる。



「真弥?」



恵里果が先を促すように声をかけるが、真弥はうつむいてしまった。



いざみんなに伝えようとすると、勇気がしぼんでしまったのかもしれない。



それでも、真弥が黙っていてもわかってしまった。



コンビニのアルバイト先には、かならずアレが置かれているはずだったからだ。



「コンビニには、カラーボ-ルがあるよな」



恵一が、静かな声で言った。



静かだけど威圧的で、真弥を責めているのがわかった。



あたしはゴクリと唾を飲み込む。



恵一もあたしと同じことを考えていたようだ。



大抵のコンビニには防犯用のカラーボールが置かれている。



それは店員なら誰でも手に取ることのできる場所に置かれているし、当然、使用目的も教わっているはずだった。

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