第24話

「俺もそう思ってる。恵一がいなかったら、俺はキックボクシングを続けていたかどうかもわからない。やっぱり、同じチームに強いヤツがいないと、張り合いがないよな」



吉之はそう言い、笑って見せた。



「恵里果は同じクラスで、時々キックボクシングの話をしてくるよな。観戦するのが好きだって言ってた」



「そうだよ。一応、ルールも一通りわかってるし、部活の見学にも何度も行った」



恵里果は頷きながら答えた。



残るはC組の貴央と真弥の2人との関係だけだ。



真弥は貴央の後ろに隠れ、小型犬のように怯え震えている。



「貴央と真弥は……」



そこまで言って恵一は口を閉じた。



その表情がどんどん歪み、不審げになっていくのを見た。



「どうして、2人がここにいるんだ?」



恵一の質問に貴央が「そ、そんなのこっちた聞きたいよ!」と、叫ぶ。



貴央の表情は青ざめている。



「ここにいるほとんどが俺と面識深いメンバーだ。でも、貴央と真弥は違う。同じ2年生だからもちろん知ってるけど、それほど会話もしたことがない」



全員の視線が貴央と真弥へ向けられた。



どうやら、今回のキーパーソンはこの2人にあるようだ。



「ちょっと……やだよ貴央……」



真弥が今にも泣きだしてしまいそうな声で言い、貴央に縋り付いている。



真弥はこの空間で目覚めた時から泣きそうだったけれど、今はそれに拍車をかけているように見えた。



「大丈夫。面識のない俺たちが恵一を事故に遭わせるほど怨むわけがないんだから」



貴央は必死に真弥をなだめている。



貴央の言い分はもっともだった。



面識が薄いということは、この2人は最も犯人から遠いということだ。



「でも、それじゃ話がふりだしに戻っちゃうよね」



顎に手を当ててそう呟いたときだった。



不意に、真弥が声を上げて泣き出したのだ。



その泣き声があまりに大きくてギョッと目を見開く。



今まで我慢してきたものが一気に溢れ出したような、そんな泣き声だった。



「真弥どうした? 大丈夫か?」



その場にうずくまってなきじゃくる真弥を抱きしめる貴央。



それでも真弥は泣き止まなかった。



何度も何度もしゃくり上げて、震えている。



この空間にいることが限界だったのかもしれない。



「真弥、大丈夫だから少し落ち着こう。な?」



必死で貴央がなだめているが、真弥は小さな女の子みたいにイヤイヤと左右に首を振る。



恵里果や吉之は真弥の奇行を呆然として見つめているが、あたしたちだっていつ発狂してもおかしくない。



今はまだ、緊張の糸が切れていないだけだ。



そう思った時だった。



顔を上げた真弥が貴央に抱きつき「もう無理だよ! 嘘はつけない!」と、叫びだしたのだ。



その瞬間、貴央が焦った表情を見せて「なんのことだよ?」と、声をかけている。



あたしと恵一は一瞬目を見交わせた。



真弥はただ泣いているのではない。



この事故に関係している、なにかを知ってるのだ!



咄嗟にそう判断して、真弥に駆け寄った。



「嘘ってなに?」



いまだ泣きじゃくる真弥に聞く。



しかし、真弥は上手く言葉を紡ぐことができず、しゃくり上げるばかりだ。



少し落ち着いてもらわないと、会話にならない。



「悪い。ちょっとパニックになってるみたいだ。本当に、なんでもないから」



貴央がそう言い、あたしと真弥を引き離そうとする。



強引に腕を引かれてその場に尻餅をついてしまった。



痛みが走り、顔をしかめて貴央を睨み上げた。



「今の、わざとでしょ」

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