第23話

あたしは黒板の前で棒立ちになっていた。



恵一が何者かによって命を狙われた。



あたしはその巻き添えになったのだ。



その事実に全身が冷たくなっていくのを感じた。



「どうして恵一が命を狙われないといけなかったの?」



真弥の質問によって、我に返った。



そうだ。



どうして恵一は命を狙われたのだろう?



それがこの空間を作り出している原因かもしれなかった。



しかし恵一は青ざめたまま左右に首を振った。



「さっきも言ったけど誰かに殺したいほど怨まれるなんて、考えられない……」



そう言いながらも、恵一は必死で自分の行いを思い出している様子だ。



さっきから落ち着きなく教室を歩き回り、時折こめかみに手を当てて考え込んでいる。



「恵一がなにか思い出せば、この空間も変わるかもしれない」



あたしは恵一の隣に立ってそう言った。



「でも、なにもわからない。俺、そんなに悪い事してきたかな……」



だんだんと自信が失われて来ているのか、恵一の声は弱弱しくなっていた。



今までしてきたことのすべてが、誰かにとってはマイナスな出来事に繋がっていたのではないかと悩んでいる。



でも、あたしが見て来た恵一は、いつでもキックボクシングに熱心だった。



先生から才能を認められていたし、大会ではいつでも1位2位を争う実力もあった。



恵一自身もキックボクシングが大好きなようで、教室ではスポーツ雑誌を毎日のように眺めていた。



キックボクシングだけで食べていくことは難しいみたいだけれど、自分から自分の経歴に傷をつけるようなことをするとは思えなかった。



「あたしも一緒に考えてあげるから、心当たりがあることがあったら話てほしい」



あたしは恵一の肩に手を置いてそう言った。



「あぁ……」



「特に、このメンバーとの関係性だと思う」



あたしの言葉に、一瞬教室内はピリついた空気に包まれた。



「このメンバーで隔離されたってことは無関係じゃないと思う」



そう言うと、恵一は改めて7人を見回し始めた。



「1年の由祐と一輝は俺のことを慕ってくれてる。部活にも熱心だし、成績も悪くない」



「俺たちが恵一先輩を怨むなんてこと、あり得ない!」



恵一の話の途中で由祐が叫んでいた。



「そうですよ。恵一先輩には毎日部活でお世話になってるし、そのお蔭で強くなれたんです!」



一輝も負け時と言った。



2人の態度に恵一は目に涙を浮かばせている。



「そうだよな……」



恵一も、2人の後輩を疑いたくなんてないのだろう。



その表情はとても苦し気だ。



「吉之は俺の一番のライバルで、親友だ」



恵一の視線が吉之へ向かう。



その瞬間、恵里果が吉之の半歩前に立った。



まるで、恵一の視線から吉之を守るように。

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