第20話

「どんな話の時に時間が動いたか、ちゃんと書いていった方がいいかも」



あたしは早口に言って黒板の前に立った。



2つの会話の内容を簡潔に黒板に書きだしていく。



こんなことをして本当に意味があるのかどうかわからない。



でも、やってみなければなにも変われないことは、確かだった。



「事故に関する話題でも、あまり関係が無かったり重要じゃなかったら時間は進まないのかもしれないですね」



1年生の由祐があたしの隣に立ってそう言った。



「そうなのかも……でも、どうしてだろう? 事故を起こした犯人は恵一のお父さんだってわかってるんだよね? なのに、なんでこんな空間ができたんだろう?」



あたしはブツブツと呟いて頭を抱える。



例えば犯人が捕まっていないことが原因で、あたしの苦しみや悲しみがこの空間を作り出したとか。



あたしが死んでしまっていて、犯人への強い怨念が原因でこの空間を作り出したとかなら、まだ理解できる。



でも、今はその両方ともに当てはまらなかった。



あたしはこうして生きているし、犯人はすでにわかっている。



この妙な空間が作りだされる原因が見当たらないのだ。



「とにかく、もう1度ドアや窓を確認してみましょう」



1年の一輝がそう言いドアに手をかけている。



しかし、それは相変わらずビクともしない。



窓も同じだ。



「やっぱりダメみたい……」



真弥が声を震わせて言った。



「じゃあ、一体なんのためにこの針は進んでるんだろう?」



あたしは時計を見上げて呟いた。



「確かに、妙だよな……」



吉之が頷く。



ドアも窓も開かないのに、秒針だけ進んでいく。



秒針が進んだ分だけ教室内に変化があればいいけれど、それも見当たらなかった。



「もしかして、ある一定の時間まで針を動かせば解放されるんじゃないか?」



そう言ったのは貴央だった。



「一定の時間って?」



あたしが聞き返すと貴央は首を傾げた。



「さすがにそこまではわからないけど、時計の針を進めて行けばなにか変化がある気がしないか?」



「そうなのかな……」



今まで長針は2度動いているが、それでもなんの変化もなかった。



これから先教室内に変化が訪れるかどうか、誰にもわからないことだった。



「話を戻しましょう」



1年生の一輝がそう言った。



あたしはコクリと頷く。



「えっと……恵一のお父さんは捕まったの?」



聞きにくことだけど、あたしはひとつ咳払いをしてからそう聞いた。



「いいや……。あの、事故はちょっと変だったんだ」



恵一は申し訳なさそうな表情をこちらへ向けて言った。



「変って?」



自分が被害に遭ったことなのに、人に聞かないとなにもわからないのがもどかしかった。



「さっき言った通り、あの時俺は車の助手席に乗ってたんだ。横断歩道の手前で、車側の信号はまだ青だった。その時に頭上からカラーボールが落ちてきたんだ」



恵一の言葉にあたしは一瞬絶句していた。



カラーボールとは、防犯等で使われるボールのことだろうか?

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