第21話

カラーボールを強盗などの犯人に投げれば、衣類にベッタリと色がつくのだ。



そうすることで、犯人が捕まりやすくなるし、その場で逃げ出すこともある。



「それって、コンビニとかにある防犯用のボールのことであってる?」



あたしは首を傾げて聞き返す。



「そう。フロントガラスにカラーボールが当たって、視界がゼロになって、次の瞬間事故が起こった。恐らく、カラーボールは車の頭上から投げられたんだろうって言われてる」



恵一の説明にあたしは眉を寄せた。



普通に生活していたそんなことが起こるとは思えない。



どう考えても、誰かが意図的にカラーボールを車のフロントガラスへ投げつけたのだろう。



「頭上からってことは、高いビルの上からってことですか?」



1年生の一輝が聞くと、恵一は左右に首を振った。



「いや。ちょうど歩道橋があったんだ。たぶん、そこから投げ落とされた」



そう言う恵一の顔はまた青ざめ始めていた。



当時のことをリアルに思い出したのかもしれない。



「それって……もしかして、誰かが故意に事故を起こさせようとしたってこと?」



あたしは恐る恐るそう質問をした。



「そうなのかもしれない」



恵一は返事をしてすぐに俯いてしまった。



だから、恵一はずっと顔色が悪かったみたいだ。



カラーボールを投げた犯人に狙われたのは恵一と、恵一のお父さんだった。



そこにあたしが巻き込まれてしまったのだ。



「でも、どうして恵一が狙われたの?」



そう聞くと、恵一は左右に首を振った。



「なにも身に覚えがないんだ。そりゃあ、少しは誰かに恨まれたりしていたかもしれないけど、あんな、命にかかわるようなことをされるなんて……」



「恵一のお父さんは?」



続けてそう聞いても、恵一はやはり左右に首を振った。



「俺の親父はいい人だ。あの日だって、俺を会場に送ってくれていたんだから」



「でも、外の顔はわからないだろ」



黙って聞いていた貴央が不意にそう言った。



「え?」



恵一が目を丸くして貴央を見つめる。



「別に、恵一の親父さんのこと知ってるってわけじゃないけど、自分の親のことなんて、ほとんどわからないもんだろ? 家にいるときの顔しか、俺たちは知らない」



「確かに、貴央の意見も正しいと思う」



恵里果が頷いて言った。



狙われたのは、恵一のお父さんだったのか……?



そう考えた瞬間、またカチッ!と音がした長針が動いていた。



一斉に時計へ視線を、向けると15分の場所に針が止まっていた。



「動いた……!」



恵里果が大きな声で言う。



「きっと、事故に関する重要な情報だったから動いたんだよ!」



あたしはそう言い、黒板にカラーボールについて書き加えた。



「でも、子供のイタズラっていう可能性もあるよね?」



恵里果が言う。



「そうだな。防犯グッズを家に置いている家庭もあるだろうなしな。子供でも持ち出すことができれば、イタズラで投げ落とした可能性も出て来る」



貴央が恵里果の考えに賛成したので、あたしは眉をよせた。



「たしかに防犯グッズを置いている家庭はあるかもしれないけど、カラーボールはちょっと特殊じゃない? あれは犯人に当てて使うものなんだよ?」



あたしは早口で言った。



仮に、家の中に強盗が侵入してきた時のことを考えていたとしても、カラーボールを買うより先に鍵を増やしたり、強化ガラスに変更したりと言った防犯対策が取られそうだ。



「カラーボールは、いつ誰が入って来るかわからないようなお店だから使うものなんじゃない?」



あたしの言葉に頷いてくれたのは1年生の2人だけだった。



「子供のイタズラじゃないとしたら、やっぱり俺は狙われたことになる」



恵一が震える声で言った。



やはり、誰かが故意に事故を起こさせた……。



そう考えると、あたしも体が震えた。



ただ、狙われたのが自分ではなかったということで、少しだけ安堵している所もあった。



もしもあたし自身が狙われていたら、これから先も命の危険があると言うことだ。



「それか、愉快犯だな」



貴央が言う。



「愉快犯?」



真弥が聞き返した。



「そう。時々ニュースになってるだろ。線路に障害物を置いたりして、どうなるか見てみたかったって言ってるやつ」



最悪、死人がでてもおかしくない事件だ。

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