第19話
一瞬にして全員の視線がこちらへ向かう。
だけど、あたしは間違えたことは言っていないはずだ。
「この空間があたしの事故に関することで出来上がったなら、犯人である恵一のお父さんがいるべきでしょう?」
一番の当事者である人がいないのは、さすがに不自然だ。
「それはそうかもしれないけど……」
恵里果はそう言いながらこちらを睨み付けて来た。
咄嗟にあたしは口をつぐむ。
さっきまであたしの味方をしてくれていたハズなのに、どうしたんだろう?
急な不安が胸に湧き上がってくるのを感じた。
しかし、次に見た時には恵里果はいつもの表情に戻っていた。
あたしの勘違いだったのかな……?
そう思った時だった、恵一が口を開いていた。
「俺はあの時、お父さんの車に乗ってた。キックボクシングの試合に行く途中だったから……」
恵一が小さな声で言った。
「それじゃ、恵一は事故を間近で見てたの?」
あたしの問いかけに恵一が頷く。
「本当は、ずっと怖かった。珠が救急搬送されて、親父が警察に連れていかれて。頭の中は真っ白になってた」
当時を思い出したのか、恵一の声が強く震えた。
恵一は自分の体を両手で抱きしめて話を続けた。
「でも、珠の命には別状がないってわかって、ひとまず安心したところだったんだ。親父がしてしまったことは許されることじゃないけれど、でも、珠が助かったのならって……」
恵一の言葉に嘘はなさそうだ。
この空間にいることの恐怖や不安が、少しだけ緩和された気がした。
「だから、ここで目が覚めて珠がいた時、正直すっげー嬉しかった。珠は回復して、学校に戻って来たんだって思った」
「そうだったんだ……」
あたしはぼんやりとここで目覚めたときのこと思い出した。
全員、突然ここで目が覚めてとても混乱していたっけ。
実際には、あれからどのくらい時間が経過したんだろうか?
体感では、もう何時間も経っているように感じられた。
「恵一先輩が車に同乗していたことも、珠先輩以外の全員が知っていることです。そんなことをカミングアウトしたところで、変化はないと思いますけど」
一輝がため息まじりに言った、その瞬間だった。
カチッ!
あの音が、教室に大きく響いたのだ。
全員が息を飲み、視線を時計に向けていた。
「動いてる……」
貴央の後ろにいた真弥が呟くのが聞こえて来た。
ずっと5分のところにいた時計の長針が、今は10分のところにあるのだ。
あたしは大きく目を見開いてそれを見つめた。
「やっぱり、珠の事故に関することを話せば時間が進むんだ!」
恵里果が叫ぶ。
少しおだやかになっていた心臓が、また早鐘を打ち始めるのを感じた。
「でも、さっきから事故の話をしてたけど、全然動かない時もあったよな。あれはどういうことだろう」
吉之が難しそうに眉間にシワを寄せている。
確かに、あたしたちはさっきからずっと事故についての話をしている。
その中で針が動いたのは、あたしが事故に遭って入院していたと聞かされたときと、恵一の父親が事故を引き起こしてしまったと、カミングアウトしたときだけだ。
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