第18話
「あたしの口から言わせてもらうよ?」
恵里果からの問いかけに、恵一はビクリと肩を震わせた。
さっきまで大きく見えていた恵一の体が、今はとても小さく見えた。
あたしはゴクリと唾を飲み込み、恵里果の次の言葉を待った。
聞きたくないと、あたしの本能が言っている。
出ていくことができるなら、今すぐ教室から飛び出して逃げ出したいと、本能が言っている。
けれどそれは叶わぬ願いだった。
そしてあたしは今、恵里果の言葉を聞くしかないのだ。
恵里果は1度大きく息を吸い込んだ。
そして、話す。
「事故を起こしたのは、恵一のお父さんの車だよね?」
恵里果の言葉に、あたしの時間が停止した。
「え……?」
声にならない声で呟く。
視線を恵一へと向行けるが、恵一は返事をしないままジッと床を睨み付けていた。
しかし、さっきからの態度を見ていると、肯定しているのと同じだった。
全身が冷たくなっていくのを感じる。
記憶から抜け落ちたパーツが1つ、コロンッと足元に転がっている感覚がした。
それを拾い上げて記憶の中に紡がなければならないのに、手に取ることができない。
そのくらい重たい真実だった。
「……あたし、恵一のお父さんに轢かれたの?」
掠れた声が出た。
一文字発するごとに、心臓がドクドクと早鐘を打つ。
ここまで緊張したのは初めての経験かもしれない。
高校受験の時だって、これほどの緊張感はなかった。
いつの間にかギュッと握りしめていた拳には、ジットリと汗が滲んできていた。
恵一はゆっくりと顔をあげてあたしを見る。
目が合った瞬間、また心臓がドクンッと跳ねた。
事実を知らなければならない。
だけど知りたくない。
自分の中で、そんなせめぎ合いが続いていた。
恵一の表情は歪んでいて、申し訳なさで一杯に見えた。
「そんなの、ここにいる全員が知ってることじゃないですか」
恵一を庇うようにいったのは1年生の一輝だった。
あたしはハッと息を飲んで一輝へ視線を向ける。
一輝は恵里果のことを怨んでいるかのように、睨み付けていた。
「そうだね。だけど、珠は知らなかったと思うよ?」
恵里果があたしを見て言う。
あたしは素直に頷くしかなかった。
あたしは自分が事故に遭った時の記憶も、持っていないのだから犯人が誰かなんて知るよしもない。
「……本当なの?」
あたしは恵一へ向けてそう聞いた。
恵一は苦し気なうめき声をひとつあげ「本当のことだ」と、呟くように答えた。
同時にあたしから視線を逸らし、右手で自分の顔を覆ってしまった。
「そうなんだ……」
正直ショックだった。
まさか、自分の事故がクラスメートの父親によって引き起こされたものだったなんて、微塵にも考えていなかった。
でも……ふと、違和感が胸をついていた。
「それならここに閉じ込められるのは恵一のお父さんの方がふさわしいと思わない?」
あたしは自分の考えをそのまま口に出していた。
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