第17話
「俺もだ。土曜日は試合だったからな」
吉之がすかさず言った。
「それを言ったら、俺と由祐もです」
1年生の一輝の言葉に「2人ともキックボクシング部なの?」と、真弥が聞いた。
「そうです。だから恵一先輩のことも、吉之先輩のことも知っています」
由祐が答えた。
ここにいる8人中、半分の4人がキックボクシングをしているということになる。
この空間にいることと、なにか関係があるような気がして胸が騒いだ。
もしかして、この空間と密接な関係にあるのはあたしではなく、この4人なのではないか?
そんな疑念が浮かんでは消えて行く。
もしもそうだったとして、キックボクシングとなんの関係もないあたしと恵里果、そして貴央と真弥が一緒にいるのはどうしてだろうか?
「俺はあの日、1日中真弥とデートしてた」
そう言ったのは貴央だった。
真弥の手をきつく握りしめていて、絶対に離さまいとしているのが伝わって来た。
真弥は貴央の言葉にコクコクと何度も頷いた。
全員の行動を把握した恵一が時計に視線を向けた。
しかし、針は動いていない。
「動かないか……」
吉之が落胆した声で呟く。
「ダメか……」
恵一も力なく呟いた時、恵里果が教室の中央へ一歩近づいた。
ほんの少し動いただけだったけれど、その一歩はやけに大きく感じられ、全員の視線を引きつけた。
恵里果はみんなからの視線を受けて緊張した様子で頬を高揚させている。
そして、1度全員の顔を見た後、決意したように話し始めた。
「珠が事故に遭った事と、この空間が関係しているのなら一番大切なことを忘れてるよね」
その言葉は恵一へ向けられているのがわかった。
その瞬間、恵一の顔が青ざめる。
なに……?
あたしは自分の胸の前で手を組んだ。
心臓がドクドクと高鳴り、今にも爆発してしまいそうだ。
恵一と視線がぶつかった瞬間に逸らされる。
さっきまでの反応とは明らかに違うそれに、あたしは1人で戸惑うばかりだ。
みんな、なにか知っているんだ。
あたしが忘れてしまったなにかを……。
恵里果と視線がぶつかって、あたしは思わず後ずさりしていた。
「ごめんね珠。珠を傷つけるかもしれない」
「なに……?」
そう質問しながらも、聞きたくなくて左右に首を振っていた。
恵一は青ざめて黙り込んでしまっている。
それは、恵一にとってもなにかよくない事なのだと、安易に想像ができた。
「恵里果何を言うつもり? あたしの事故に関係あることで、重要なこと?」
「そうだよ。たぶん、一番重要なこと……」
恵里果はそう言うと、視線を恵一へ戻した。
恵一は恵里果と視線を合わせようとしない。
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