第15話
「由祐、工具を使って砕くんだ!」
あたしたちの後ろから恵一の声が飛ぶ。
絶望に体を震わせて由祐が工具を握り直した。
「はい」
短く返事をして、黒い岩のようなものにノミを押し当て、ハンマーで叩く。
それはカーンカーン! と甲高い音を響かせ、鼓膜を不愉快に揺らした。
「これ、ただの岩じゃない……」
どれだけノミで打ちつけても岩は少しも欠けることがなかった。
普通なら少しずつでも削れていくはずなのに……。
続けてノミを打ちつけていた由祐が「あっ!」と声をあげて手を止めた。
見るとノミの先が欠けているのだ。
「嘘でしょ、工具が壊れるなんて!」
「これ、一体なんなんでしょうか……」
由祐は頬に流れた汗をぬぐい、大きく深呼吸をした。
「こっちの床も剥いでみたけど……」
そんな声がして振り向くと、貴央が青ざめた顔で立ち尽くしていた。
すぐに床下を確認しに行くと、こちらにも同じ岩のようなものが立ちふさがっていたのだ。
「こんなのおかしいよ。この教室の下は1年A組のはずなのに!」
真弥が悲鳴に似た声で言う。
確かに、2年A組の下は1年A組の教室があるはずだ。
でも、存在しているのは工具も打ち砕いてしまう、真っ黒な岩のようなもの……。
さっきまでの期待は一気に絶望へと変換され、重たい沈黙がのしかかってくる。
みんな呆然と岩を見つめているだけでなにも発言できなかった。
「て、天井も確認してみますか」
震える声で1年生の一輝が言う。
「確認したって、どうせ同じだよ!」
真弥が貴央の手を握りしめて叫んだ。
「でも、上の階から行けるかもしれない」
吉之が天井を見上げて言った。
「だけど、天井を破壊するのは床よりも体力が必要だ。それで出られなかったら、無断な体力を消耗することになる」
そう言いながらも、吉之は工具を握りしめて教卓の上に立った。
背の高い吉之なら手を伸ばせば天井に届く。
「吉之、大丈夫?」
恵里果が不安そうに近づいていく。
「大丈夫だから離れて」
吉之はそう言うと、ハンマーで天井を思いっきり叩いた。
何度か繰り返しハンバーを叩きつけるとすぐに天井板がバラバラと落下する。
しかし、恵里果はその場を離れようとしなかった。
そして……。
「ダメだ」
吉之の絶望的な声が聞こえて来た。
恐る恐る近づいて剝がれ落ちた天井を確認してみると、そこにもまた、真っ黒な岩のようなものが存在していたのだ。
「この教室は上も下も隔離されてるのか」
恵一が呟き、あたしは強く身震いをした。
これで教室からの脱出の道はすべて閉ざされたということが確実になってしまった。
「やっぱりこの空間は普通のものじゃないんだ。誰かが作りあげた監禁部屋なんだ!」
貴央が叫ぶ。
『監禁部屋』という単語に思わず吐き気が込み上げて来た。
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