第13話
☆☆☆
そして、現在。
「そうだよ。一緒にショッピングに行かないかって、あたしから誘ったの。だけど珠は約束場所に来なかったの。どうしたのかなって思って心配して、何度もメッセージを送ったけど返事もなかった」
恵里果は当時を振り返って説明する。
「確かに、朝恵里果からメッセージが来たのは覚えてる。それで準備して家を出て……。そこから先の記憶があいまいなの」
思い出そうとすると、やっぱり頭痛がした。
事故のショックを思い出させないための自衛なのかもしれないが、今は邪魔で仕方なかった。
「そっか……。でも、総合して考えると珠は約束場所へ到着する前に事故に遭ったことは確実だよね」
恵里果の言葉に「たぶん、そうだと思う」と、頷いた。
どうやらあたしは土曜日の午前中に事故に遭ってしまったようだ。
そこまで分かった時、もう1度時計へ視線を向けた。
しかし、長針は動かない。
それを確認して、あたしは大きく息を吐きだした。
「ねぇ、こんな話し本当に意味があるの? 時計の針は進まないし、意味なんてないんじゃない?」
自分には事故に遭った時の記憶も、目覚めてここまで来た記憶もない。
これ以上会話を続けていても変化があるとは思えなかった。
「そうだな……なにも変化がないもんな」
恵一が顎に指をあてて呟き、教室内を歩き回る。
他にできることがないか、必死で考えているのだろう。
「ねぇ……もしかしたら、大声を出して助けを呼んだ方が早いかも」
そう言ったのは真弥だった。
真弥の言葉にあたしは目を丸くした。
とても単純なことだけど今まで思いつかなかったことだ。
「でも、椅子で窓を割る時にあれだけ騒音が出てたんだよ?」
そう言ったのは恵里果だった。
確かに、真弥が両耳を塞いでしまうくらいの騒音だった。
「でも、『助けて』とは言ってないよな」
貴央が真弥を庇うように言う。
「確かに。1度やってみるか」
珍しく吉之が積極的にドアへと近づいて行く。
「あたしも賛成する」
とにかく、みんなの意識があたしから離れるならそれでよかった。
あたしは真弥と吉之の意見に賛同し、ドアへと急いだ。
「あとは、床や壁を壊して脱出するとかかな。よし、やれることは全部やってみよう」
貴央の言葉に真弥が頷く。
「恵一、やるぞ」
「あぁ……」
考え込んでいる恵一を1人残して、貴央は再び椅子を手に持ったのだった。
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