第11話

「趣味はショッピング。嫌いな食べ物はキノコ類」



声が震えた。



たったこれだけの自己紹介で、心臓が潰れるほどに緊張してしまった。



そして、あたしが答えたのと同時に全員が時計に視線を向けていた。



長針は変わらず5分の場所にある。



5分おきに進む時計なら、もう10分のところにいてもいい時間だった。



しかし、進まない針を確認してあたしは安堵していた。



自分のことを話しても時計の針は進まなかった。



つまりあたしは、犯人じゃない。



今、みんなの頭の中でそう変換されたはずだった。



「進まないな。他になにかないか? 好きな科目とか、嫌いな科目とか」



恵一が更に質問を続ける。



あたしはさっきまでより落ち着いて「好きな科目は現国で、嫌いな科目は数学」


と、答えた。



今度は声も震えなかった。



全員の視線は時計に固定されていたが、針は進まない。



「ねぇ、これ本当に意味があるの? 全然進まないんだけど」



あたしは、みんなの考えが間違っていること主張するためにそう言った。



「確かに、進まないね……」



恵里果は残念そうな、ホッとしたような、複雑な表情を浮かべている。



「こんなことしたって意味ないのかも」



あたしは更に言葉をつづけた。



「時間が進んだ時に話してたのは事故のことでしたよね? じゃあ、その時のことを話してみたらどうなか?」



ふと思いついたように1年生の由祐が言った。



その瞬間、思わす由祐を睨み付けてしまった。



まだあたしについて話をしなきゃいけないのかと思うと、うんざりする。



それが顔に出ていたのだろう、恵一が「大丈夫か?」と、聞いて来た。



あたしは無言のまま視線を下に移動させた。



自分の、肉付きの悪い両足が見える。



「今できることはこれしかないんだ。時間が経てば、もっといろんなヒントが出て来るかもしれない。それまでの辛抱だから」



恵一に懇願されるように言われると、あたしは何も言えなかった。



顔を上げて「平気だよ」と、答えるしかない。



やると決めたなら、できるなら早く終わらせてほしかった。



「事故に遭った日の朝から思いだしてみたらどうかな?」



そう言ったのは真弥だった。



相変わらず顔色は悪いけれど、貴央がずっと真弥の手を握りしめているので、少し気分が落ち着いているようだった。



「自分が事故に遭った日がいつなのか、覚えてないの」



あたしが左右に首をふってそう言うと「先週の土曜日だ」と、恵一が躊躇なく言った。



恵一へ視線を向けると、なぜが視線を逸らされてしまった。



「土曜日の朝……?」



あたしは空中に視線を投げ出してその日の出来事を思い返した。



「土曜日は確か、恵里果と遊びに行く予定にしてたと思う」



思い出したのは土曜日の朝の光景だった。



その日、なんの予定もなかったあたしは朝8時頃に起きだして、のんびりとご飯を食べていたんだ。



その時恵里果から遊びに行かないかというメッセージが入った。

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