第7話

全員の自己紹介が終わっても、事態はなにも変わらなかった。



ただ、みんなの名前がわかって会話しやすくなった程度だ。



「机の中は確認したから、今度はロッカーの中とかを確認してみよう」



恵一はそう言い、1番に動き始めた。



とにかく教室中を調べて外へ出る手がかりを探すようだ。



あたしと恵里果は一緒になって教室後方のロッカーを調べ始めた。



鍵のかからない、ただ箱が並べられただけの空間。



その中には体操着や体育館シューズが入れられている。



「机の中は空だったのに、どうしてロッカーの中には物が残ってるんだろう」



ふと疑問を感じて、あたしはそう呟いた。



「そうだよね。もしかしたら、本当にヒントになるものが隠れてるのかもしれないよ!」



恵里果が期待に膨らんだ声を上げ、さっそく体操着袋の中を確認している。



他のメンバーも、体操着を机の上にひっくり返し始めた。



「この体操着誰のですか? 全然洗ってないみたいですよ!」



1年生の由祐が悲鳴のような声を上げてしかめっ面をしている。



確かに、袋から出した瞬間汗の臭いが漂って来た。



「早く袋にしまってよ。その臭いで窒息死しちゃうから」



冗談半分にそう言い、次のロッカーを確認する。



全員分の体操着とシューズは確認できたけれど、それ以外のものはなにもなかった。



「なにもなかったね……」



恵里果が肩を落として呟く。



机にもロッカーにもなにもないんじゃ、これから先どうすれば外へ出られるのかわからなかった。



絶望にも似た感情が湧き上がってくるのを感じて、あたしは、無理やり笑顔を作った。



「大丈夫! きっと、どうにかなるから!」



根拠なんてどこにもなかったけれど、そう言わないと元気がでない。



下手をしたら、このまま座り込んで動けなくなりそうだった。



「これってさ、よくあるホラー映画みたいだよな」



ふと思い出したような口調でそう言ったのは貴央だった。



みんなの視線が貴央へ向かう。



その視線を感じながら、貴央は更に話を進めた。



「目が覚めたら隔離された部屋の中で、全員で殺し合いのゲームをさせられるんだ」



「ちょっと、やめてよ貴央」



貴央の腕を掴み、青ざめた顔の真弥が言う。



確かに、貴央が言うようなホラー映画やゲームは数多く存在する。



ホラーに特化していなくても、脱出ゲームは全国的に人気だ。



「真弥ってホラー苦てだっけ? そんなに怖がるなよ。いまの所誘拐犯からの指示もないにも来てないんだからさ」



貴央の言葉に吉之が眉を寄せた。



「これが誘拐、監禁事件だとしたらやっぱり先生たちもグルってことになるな。最初からこの教室を監禁場所に使うつもりで、ドアを空かなくしたり窓を防犯用に変えたりしたんだ」



吉之はそう言ってから、首を振って見せる。



「でも、そんなことはあり得ない。教室を監禁場所に使うなんて、現実世界でそんなことをするのはリスクが高すぎる」



吉之の言葉に貴央が大げさなため息を吐きだした。

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