第4話
では誰に……?
「まさか、先生に没収されたとかじゃないよね?」
真弥が貴央へ向けてそう聞いている。
「そんなこと今まで1度もなかっただろ。それに今は教室から出られない緊急事態なんだ。スマホがないと、助けも呼べない!」
貴央は焦っているようで早口になっている。
でも、ないものはないのだ。
あたしは自分のスマホを探すのをやめて、机の中を確認してみることにした。
スマホか、もしくはなにか他に役立つものが入っていないかと思ったが、机の中は空っぽだった。
「あれ……?」
「どうしたの珠?」
恵里果が隣に近づいてきて、あたしと同じように机の中を確認した。
「教科書がなくなってるの」
宿題に使わない教科書はいつも置いて帰っているのに、おかしい。
「まさか、机の中まで誰かにイジられてるの!?」
恵里果はそう言い、すぐに自分の机を確認しに行った。
「あたしの机の中も空になってる! メーク道具を入れておいたのに!」
「俺も机の中も空だ。こんなことできるなんて、先生しかいないだろ」
恵一が机を確認して大きくため息を吐きだした。
「まさか、全部の机の中が空っぽですか?」
1年生の由祐がそう言い、「失礼」と声をかけて近くの机を確認しはじめた。
「どの机にもなにも入ってないですね……」
1年生の一輝も同じように確認して行き、そして呟いた。
次の机にも、その次の机にも、なにも入れられていなかった。
確認後、背筋をスッと冷たい物が撫でて行ったような気がした。
これは本当に先生の仕業なんだろうか?
スマホをイジる生徒が多いから?
荷物を置いて帰ってしまう生徒が多いから?
そう思おうとしても、どうしても無理だった。
注意をしても聞かない生徒は個別に指導され、それでも改善されない場合は没収になる。
でも、あたしは1度も個別指導を受けたことはなかった。
きっと、ここにいるみんながそうだろう。
1度注意された段階で、しばらくは言うことを聞くようになるから、個別指導まで行く生徒はとても少ないのだ。
なにより、教室に閉じ込めるなんてことあり得ない。
教師がそんなことをすればただじゃ済まされない。
職を失うのは当然として、犯罪者として全国ニュースに出てしまい、一生後ろ指を指されながら生きていくことになってもおかしくない。
自分たちの通う学校で、そこまで考えのない教師がいるとは思えなかった。
再び、教室内に重たい沈黙が広がりはじめる。
「みんな、とにかく一旦落ち着こう。まさか、このまま教室から出られないってことはないはずだ」
気を取り直すように、恵一がみんなの顔を見回して言った。
「外はまだ明るい。きっと、誰かが異変に気が付いてくれる」
必死でみんなを元気づけようとしているのだろう、恵一の声はやけに明るい。
しかし、内心は不安と恐怖で溢れているようで、恵一の顔色もみんなと同様に悪かった。
「そうだよね! きっと大丈夫だよね!」
あたしは恵一に習って元気よくそういい、軽い足取りで窓辺に近づいた。
外はとても天気が良くて太陽は真上に浮かんでいる。
教室の時計を確認するとちょうど12時を指していた。
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