第3話

恵一が思いついたようにそう言ってベランダ側の窓へと向かう。



近くの椅子を持ち上げると、窓へ向けて力一杯振り下ろした。



ガツンッ!



鼓膜がビリビリと振動し、恵里果があたしの手をきつく握りしめて来た。



あたしも恵里果の手を握り返す。



しかし、結果は同じだった。



こちらの窓もビクともしないのだ。



振り向いた恵一は青ざめ、頬に一筋の汗が流れた。



全員、呼吸も忘れたような重たい沈黙が流れた。



誰かがゴクリと唾を飲み込む音が聞こえ、その音で貴央が我に返った。



真弥から離れ、ドアへと近づいて行くと足で思いっきり蹴ったのだ。



ガンガンと何度も繰り返しドアを蹴る度に、ドアはガタガタと揺れた。



しかし、多少汚れが付く程度で壊れることはなかった。



「貴央、もうやめて。怖いよ」



真弥の弱弱しい声を聞いて、貴央はようやくドアを蹴ることをやめた。



「どうなってんだ……」



貴央が肩で呼吸をしながら呟く。



「とにかく外に連絡を取ってみようよ。きっと、誰か来てくれるはずだから」



真弥が早口に言い、スカートのポケットに手を入れた。



しかし、すぐに怪訝な表情に変化していく。



「どうしたの真弥?」



あたしがそう質問すると、真弥はゆっくりと顔を上げて左右に首を振った。



「スマホがない! いつもポケットに入れておくのに……!」



「え? 勘違いじゃないの?」



「そんなワケない!」



真弥はスカートのポケットをひっくり返して確認するが、中から出て来たのはピンク色のハンカチだけだった。



嫌な予感がし、あたしも自分のスカートのポケットを確認して見た。



しかし、何も入っていない。



おかしい……そもそもあたしはスマホをどこに置いていただろうか?



記憶を呼び戻そうとしてみたけれど、再び激しい頭痛に襲われて思考が途絶えてしまう。



「俺のスマホもない!」



青ざめた顔で叫んだのは吉之だった。



そんな吉之を見てすぐに恵里果が駆け寄っている。



「俺のスマホもない」



「私のもないよ」



次々にそう声を上げる生徒たち。



いくら学校でスマホが禁止されていたとしても、今のご時世なら大抵持ってきているものだ。



なにより、紫陽花高校では放課後になればスマホの使用許可が出るので、全員持っていても不思議ではなかった。



それが1台も見当たらないなんておかしい。



誰かに取られたとしか考えられなかった。

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