第2話
恵里果は今にも泣きだしてしまいそうな顔でこちらへ近づいてくる。
しかし、みんなと同じように体中が痛いのか、ゆっくりとした動作だ。
「恵里果……」
「あたしたち、どうしてこの教室にいるんだろう? ここに来た覚えがないんだけど」
恵里果はそう言って長い前髪をかきあげた。
相変わらず、同年代とは思えないフェロモンをまき散らしていて、1年生2人組が恵里果に見惚れてしまっている。
「あたしも同じだよ」
恵里果にそう返事をし、記憶を辿ろうとすると頭が痛くなると訴えようとしたときだった。
「おい、ドアが開かない! 誰か手伝ってくれ!」
途端に貴央がそう叫んだのだ。
切羽詰った声に、教室内の空気が一瞬にして張りつめた。
「開かないってなんでだ?」
近くにいた真弥がそう声をかけながら近づいて行く。
そしてドアに手をかけた瞬間、表情が変わった。
真弥の眉間に深くシワが刻まれ、次第に汗が滲み始めたのだ。
「嘘だろ…本当に開かない!」
真弥の言葉にあたしと恵里果は目を見合わせた。
恵里果は不安そうに、胸の前で手を握りしめてまるで祈るような体制になっている。
「な?開かないだろ?」
貴央はそう言い、真弥が2人がかりでドアを開けようとする。
しかし、ドアはびくともしないようだ。
「鍵がかかってるんじゃないか?」
2年C組の吉之がそう言いながら2人近づいた。
「鍵なんてかかってない」
貴央がドアから身を離してそう言った。
「本当だ。なのに、どうして開かないんだ?」
吉之は首を傾げてドアに手をかけ、ガタガタと揺らしてみている。
毎日のように使っている教室のドアなのだから、突然立てつけが悪くなって開かなくなるなんてことは考えられない。
あたしと恵里果は不安を抱え、同時にドアに駆け寄っていた。
気が付けば、体の痛みは随分とマシになっている。
それは良かったものの試に自分たちで確認してみても、ドアはビクともしなかった。
他の生徒たちが後方のドアや窓を開けようとしても、やはり動く気配はない。
「どうなってんのこれ」
真弥が目に涙を浮かべて言う。
いつもと何かが違う状況に、早くも心が砕けてしまいそうなのかもしれない。
「大丈夫。きっと開くから」
真弥の隣で貴央が気遣っている。
派手な見た目に反して、女子には優しい面がある。
「先輩たち、ちょっと下がっててください!」
そんな声に振り向くと、青色ネクタイの1年生2人が椅子を振り上げていた。
ドアの周辺に集まっていたあたしたちはすぐにその場を離れる。
ほとんど間髪入れずにガツンッ!と大きな音がしかと思うと、椅子は窓ガラスにぶち当たっていた。
しかし、窓はヒビ1つ入らない。
「おかしいな。強化ガラスじゃないはずなんだけど」
1年生の一輝はブツブツと呟いて、2度3度と繰り返し椅子をドアに叩きつける。
大きな音が鳴るたびに真弥は貴央の腕にすがりついて震えた。
あたしも恵里果と手を握り合い、息を止めて1年生たちを見守る。
肌を刺すような緊張感が漂う教室内だが、やはり窓はビクともしなかった。
「逆側の窓を割ってみよう」
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