夢の中の世界

西羽咲 花月

第1話

ふと目を覚ますと体のあちこちが痛かった。



少し動くだけでも節々が悲鳴を上げる。



顔をしかめ、どうにか上半身を起こして周囲を見回してみた。



そこは見慣れた教室の風景が広がっていた。



前方の黒板には2年A組の日直当番として、クラスメート2名の名前が書かれている。



その名前にも見覚えがあった。



ここは間違いなく、あたしが通っている紫陽花高校の2年A組の教室で間違いなさそうだった。



では、あたしはどうしてこんなところで寝っ転がって、しかも体中が遺体だろうか?



なにか思い出すことはないかと記憶を巡らせてみるけれど。ひどい頭痛がしてなにも思い出すことができなかった。



まるで、誰かに思い出すことを拒まれているような気分だ。



「痛ってぇ……」



教室の後方から男子生徒の声が聞こえてきてハッと息を飲み、振り向いた。



顔をしかめながら立ち上がったのは同じ2年A組の生徒、川本恵一(カワモト ケイイチ)だった。



恵一は大きな体で腰を曲げ伸ばしして周囲を確認している。



とにかく、1人じゃなかったことに少しだけ安堵しながら立ち上がりかける。



その時だった。



「なんだここ?」



「あれ? どうして学校なんかにいるの?」



他の男子生徒や女子生徒の声が聞こえてきて、あたしは動きを止めた。



机に隠れて見えなかったけれど、あたしと恵一以外にも複数の生徒がこの教室内にいるみたいだ。



「ここって2年生の教室か?」



「そうみたいだなぁ……」



みんな、困惑した声を上げている。



あたしは恐る恐る立ち上がって教室内にいるメンバーを確認した。



1人は恵一。



もう1人は同じ2年A組の女子生徒、貝野恵里果(カイノ エリカ)。



それから2年C組の藤森貴央(フジモリ タカオ)、勝木吉之(カツキ ヨシユキ)、豊瀬真弥(トヨセ マヤ)の姿もあった。



あとは……。



「俺たち2人だけ1年生じゃん」



そう言ったのは見知らぬ男子生徒だった。



紫陽花高校では1年生のネクタイは青、2年生のネクタイは緑、3年生のネクタイは赤色と決まっている。



さっき発言をした生徒と、その隣に立つ男子生徒のネクタイだけ、青色をしていた。



つまり、2人だけ1年生みたいだ。



あたしが知らなくてもおかしくなかった。



「ここって2年A組の教室だよね? なんでこんなところにいるんだろう」



そう言ったのはC組の真弥だった。



真弥はさっきから落ち着かない様子で教室内を見回していて、その度に綺麗に束ねられたポニーテールが揺れる。



「わかんないけど、とりあえず出ようぜ」



同じC組の貴央が真弥の手を握りしめてドアへと向かう。



そういえば2人は付き合ってるんだっけ。



貴央は明るい茶色の髪色をしていて、毎度毎度先生に怒られている。



けれど本人は『地毛です』と言い張っているという噂だ。



間近でその髪を見てみると、生え際だけ少し黒くなっている。



やっぱり、地毛というのは嘘みたいだ。



「珠!」



突然名前を呼ばれて振り向くと、恵里果が立っていた。



恵里果とあたしは同じ2年A組で、恵里果とは高校に入学してからずっと仲よしだ。


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