第27話「パーティの理由」


 アルが魔法全開でなければ破壊出来ない扉の部屋。

 その中でアリスは机に向かって銃の研究を進めていた。アルの為に作って終わりの予定だったが思いの外仕組みが面白かったのだ。

 

 「銃弾に属性を込められそうですね」


 今は火薬で鉄の弾丸を飛ばしているだけだが、錬金術で炎や風を込め、一種の魔術のように使えるかもしれない可能性に至る。

 着弾したら炎や風が巻き起こるタイプ。

 そもそも炎の弾丸を飛ばすタイプ。

 考えられる案は幾つかある。


 「狂戦士発案の銃には向きませんね。何発目に何が来て、このタイミングでは風の弾丸しか打てませんじゃ使い勝手が悪い」


 アルが持つ銃のマガジンは一列に弾丸が込められている為、次の弾を後から選べない。マガジン毎に属性分けをすることは出来るが、やはり使い難い。

 アリスは椅子から立ち上がり、本棚を漁る。

 そこから銃に関する書物を取り出し、パラパラと捲る。

 

 「魔法と魔術の所為で発展が途切れた技術の塊。勿体無い」


 こんな有用な物の開発がなくなった事実に呆れるしかないアリス。

 

 「至近距離なら魔法よりも剣よりも強いでしょうに」


 特殊弾の使用はアルが最初に持っていたリボルバー、散弾銃、単発式のライフル等なら使えそうだ。

 もしくは威力だけを求めた単発式の拳銃を新しく作っても良い、と考えた。

 アリスの錬金術は魔法でも魔術でもない為、万が一魔法全般を封じられても使える利点があり、銃を作っておけば騒がしい僧侶の自己防衛にも繋がる。

 そんなこと考えていると、ある本の背表紙が目に入った。

 アリスは銃の本を戻し、その本を手に取る。


 「魔術書基礎——入門と応用編、完結……ですか」


 一冊で完結するその本の中には魔術書の技術に関する基礎が詰め込まれている。基礎しか詰め込まれていない。

 応用と言いながら応用の具体例は一切載ってない。


 「本質を掴めば確かにこれだけで十分ですけど……全くあの人は」 


 著者の顔を思い出して、アリスは笑う。

 これだけ残しておけば大丈夫と言っておきながら後継者は現れなかった。

 つまり、そう言うことだ。

 アリスは一旦テントの外に出て、窓から国を眺める。

 

 「綺麗な国……あの人たちは……」

 「あ、アリスさんが研究部屋から出てきている!?」

 「何ですか人を引きこもりみたいに。このクソ坊主」

 「お口が悪い……」


 滑らかに飛び出る蔑称にジゼットは顔を引き攣らせる。

 

 「そうです。こんな機会ですし一緒にカフェにでも行きませんか?」

 「は? なんで坊主と一緒にそんな場所に。行くなら一人で行きますよ」

 

 アリスは全力で拒否。わざわざジゼットと一緒に行くメリットが見当たらないし行きたくない。

 理由を聞かれたジゼットは恥ずかしそうに口を開く。


 「その……お店の雰囲気がファンシー過ぎて入り難いと言うか注文し難いと言うか……」

 「……誰も気にしてませんよそんな細かいことは」

 「わたしが気にするんですよ! お願いします! あの店のパフェをどうしても食べたいんです!」

 

 土下座までは行かないが、床に膝を着けて真剣に頼み込むジゼット。

 流石の熱意に今度はアリスの顔が引き攣った。


 「そこまでしますか……」


 アリスの目的はあくまで龍神の素材。メンバーとの親交など深める気もなく、数日経った今でもアルとジゼットの好みなどは知らない。ジゼットの甘党も今知った。

 だがしかし、これで良いのか、と思う気持ちもあった。

 これからどんな相手と戦うことになるか分からない。チームワークを上げる為にも仲間のことを知っておくべきなのではないか、と。

 

 「と言っても坊主は戦えないですし、狂戦士は勝手に合わせてくれますし」

 「何の話ですか!?」

 「まあ良いでしょう。ところてんのお返しも兼ねて行ってあげます。聞きたいことも出来ました」


 アリスはジゼットの頼みを承諾することにした。


 ——。


 「確かにこれは……入り難いでしょうね」


 いざ店の中に入ってみれば内装はほぼ全て桃色に埋め尽くされていた。椅子も白でポップとファンシーを煮詰めたような空間だ。

 正直、アリス自身も入りたくないレベルだった。

 最早男女とかじゃなく、完全にその人の好みが合うか合わないかである。

 アリスは店内の雰囲気にドン引きしながら唯一普通のメニューだった紅茶を口にする。


 「あなたはあなたで楽しそうですね」

 「ふぇ?」

 「口の中にあるものを飲み込んでから喋って下さい」


 一方のジゼットはお目当てのパフェに釘付けである。あれだけ一人じゃ入れないと嘆いてた癖に空間に対しての嫌悪感は全く感じられない。

 ジゼットは口に含んでいた分を飲み込み、鼻のクリームに気付かず話し出す。

  

 「そりゃあ当然楽しいですとも! 好きな物が食べられるのは幸せなことです。欲望バンザイです」

 「私の知る僧侶とは違う生物のようですね」

 「失礼な。僧侶にも色々居るんですよ。ところで聞きたいこととは何ですか?」


 ジゼットは宿でのアリスの発言を拾い、問い掛ける。

 

 「ふと疑問に思ったのですが、何故魔王を倒しに行く冒険者は少人数なのですか?」


 テュフォンのギルドでも三人程度のパーティに誘われ、アルが元々所属していたパーティも三人、アルが居たとしても四人。パーティらしきグループは多数見かけるのに二桁以上のメンバーを抱えているのをアリスは見たことがなかった。

 そんなに魔王を倒したいのなら大人数の方が確実なはずだ。

 それこそパーティではなく軍隊を作ってしまう方が良い。

 

 「えっとですね……そもそも魔王討伐を掲げたのがテュフォンの現王だと言うのは知っていますか?」

 「それくらいは」

 「この目標に賛同した人は大勢居るんです。それは冒険者の数の多さを見て貰えれば分かると思うんですが」

 「達成した報酬は何でしたっけ? 魔族領の統治権、もしくはテュフォンの貴族になれるとかそんなでしたか」

 

 それ以外にも魔族に恨みがあると言う人物や正義感溢れる人物も冒険者には多い。


 「とまあ一人単位からすれば支持を得られたんですが……」

 「問題は国単位ですか」

 「そうですね。正直魔族と言っても大々的になんかしてくるってよりは小競り合いですし……割と放ったらかしでも良いんじゃないかって国もあったりして」

 「軍勢を作って攻めたら人間と魔族の大戦争が始まっちゃう訳ですか」

 「テュフォン王の算段では少人数のパーティに魔王を殺させ、内情がガタガタになったところを冒険者総出で叩くつもりなのでしょう」

 

 そうは言ってもテュフォン王がやったことと言えば冒険者ギルドを各地に配置することくらいで、それ以外は冒険者学園。

 冒険者になったのなら後は全部自分たちで何とかしろ。そんな姿勢だ。

 アリスの脳内にロッシの顔が浮かぶ。王ではないが王直属の騎士である。


 「気に入りませんね……」

 

 一度も魔王討伐など出来たこともないのに謎の教師陣で冒険者を育て、流す。

 冒険者志望にギルドでその資格を与えては放ったらかし。未だに魔王が居る。その後が悲惨な結果だったのは言うまでもない。

 そして今も尚その現状は変わっていない。

 ほんの少しだけ、アリスはそれをどうにかしたいと思うのであった。

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