第17話「悪夢の再来」
ゼドたちが旅立ってから数日経った後も城下町の話題はそれで持ち切りだ。
隠れて出て行ったことが逆に株を上げる結果になった。
ここ最近で一番の賑わいをアルはジゼットとベンチに座り、眺めている。合流してからずっとだ。
「リーダー、今日は日向ぼっこの日ですか?」
「わざわざ大通りでやるか馬鹿。ゼドたちが出発した影響ですげぇ白い目で見られてんだぞ。出来ることならフルボッコの日にしてるわ」
あの優等生は出発したのに首席で罪人のお前はまだなのか、と通行人の目が語っている。
だからアルは睨んで追い返していた。
「じゃあ気になることでも?」
「騎士団の動きだ」
「動き……おかしな踊りとかはしてないようですけど?」
ふざけたことを抜かすジゼットをアルは殴る。
「殴られたいのか?」
「もう既に殴られました!」
「じゃあ、その痛みを覚えとけ」
「理不尽な……」
殴られた衝撃で落っこちたベンチにジゼットが座り直した。
アルはジゼットに教えるように何人かの魔術師を指差す。
「今、指差したのが魔導騎士団所属の魔術師だ」
「そうですね。制服が騎士の人と似ています」
「お前は知らないだろうが、普段なら魔術師はここまで出張らない。お前は知らないだろうが」
「二回も言わないで下さいよ……あ、もしかして理由は必要性が薄いからですか?」
「ま、そうだな。国を五個のブロックに分けた時、一箇所に二人居れば十分だ」
テュフォンは正義感がある冒険者が最初に集まる場所なだけあって治安が良い。
頭のおかしい奴がポッと出たところで騎士団か手練れの冒険者たちにあっさり鎮圧される。
だから大通りに見えるだけでも四、五人居るのはかなりの警戒度だ。
「アリスの家でロッシが出張ってきたのはこれが理由か。魔族から襲撃予告でも貰ったかー?」
「え!? 大問題じゃないですか!? 皆さんを避難させないと!」
アルは馬鹿正直に慌て出すジゼットの服を掴み、ベンチへ力で座らせる。
「予想だ予想。まあ、正解だろうけど」
「でも騎士団以外の人は知らなそうですよ」
「言ったらパニックになるだけだ。デマの可能性もあるしな。襲撃場所の指定がなければこれが騎士団の最適解だよ」
太ももに肘を突き、掌に顎を乗せるアル。
あの時、まだアルは学生で予告状もなかった。状況は違えど国内を多くの騎士団が見回り、警備していると言うのはシェビィを殺した日を思い出す。
突然の魔族と魔獣の襲撃に城下町は大混乱。まるで悪夢だ。
だが、あれ以来大規模な魔族の襲撃はない。
「どうせデマ……」
ふと、アルの脳内に疑問が浮かんだ。
もしも紙での予告状ならデマの可能性はぐんと上がる。似たような事例が何度も起きたのを知っている。
———しかし、予告が紙ではないとしたら?
ヴァンマルクは取締班ですら呼び戻す為に足を運んだ。
アルはもう一度目で見られる範囲の魔術師の顔を見る。
ベテラン、優秀な若手、それに加えて完全な新人や弱過ぎて緊急時以外戦闘に参加しないような魔術師も居た。
「まずい」
「次はリーダーが立ち上がっちゃってどうしたんですか?」
「急いでガレンとマオを呼びに行く。お前も来い」
アルがジゼットの腕を掴み、早歩きで大通りを進む。
「ちょちょ! 説明を!」
「襲撃はデマじゃない。確実に来る」
「分かるんですか?」
「派遣されてる魔術師や騎士の中に雑魚とか経験の浅い奴らが混ざってる。総動員してるんだ。これは襲撃が分かってないとやらない采配だ」
そこまで分かっているとすれば予告の仕方は限られる。
「襲撃の予告は間接的な方法じゃない。直接出向いて宣戦布告しやがったんだ。避難勧告を出してないのは日にちをボカされたんだろうよ」
襲撃の日にちが分かっていれば避難をさせることも出来ただろう。もし分かっていない状態で避難させれば物流を無駄に止めることになり、数日経っても襲撃が来なければ国民が真実を疑い出す。
今日来るのかもアルには分からない。
それでも乱戦状態の際に連携を取れる味方が傍に居て欲しかった。何時その時が来ても良いように。
しかし——
『緊急! 緊急! 大規模勢力の襲撃です。至急、戦闘態勢に入って下さい——』
宙に浮かぶ魔力を宿した水晶が国全域に無機質な指示を出す。
それは騎士団への指示と同時に国民への警戒態勢の呼び掛けも兼ねている。
アルにとって二度目の緊急警報。
「遅かった……くそっ!」
水晶は三度、同じ文言を繰り返し——突如飛来した透明な槍に打ち砕かれた。
魔獣たちの行進が大地を揺らす。
悪夢が再来する。
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