失敗と成功と
それから沈黙が続く。
リルケスが錬金術をやっているあいだマラーも釜をかりて錬金術をしていたせいだ。もともと精神を集中しなくては錬金術の品物は質が落ちる。親の死に目にあえなくても錬金術の手は止めるなと言われるくらいだ。
だが二人は横に来て気楽に喋ったり助言をしたりもする。これで二人とも一級品の品物を仕上げてしまうのだからたいしたものだといえよう。全ての心を捨てて無心に返り何も考えずに喋らずにやれば彼ら二人の作品は既に20歳前の者が作ったものとは信じられないだろう。
マラーは再生薬、七色玉、加護結界、酸玉、精神補正薬、オリハルコンの武器生成、底なし沼の袋とあらゆるものの錬金術の技術をフォレストに売っていた。
そしてリルケスも自分の稼いだ錬金術の預貯金をマラーにまるごと渡した。そしてフォレストの援助と魔法庁の特別指定魔術師としての認定保障金を元手に今回の工房設立にいたったのである。
「できた!入れ方をひっくり返しただけなのになんて出来の違いだ!」
「見せてみろよ」
「いいけど錬金術は?」
「こちらも丁度冷やして瓶詰めするだけだよ」
「何、作ってたんだ?」
「避妊薬」
「そんなもん売れないだろう?」
「魔法庁の決定で学校が七校設立されるのは知ってるな?」
「ああ?確か6歳から18歳まで魔法の徹底した教育を受けさせるためだよな?」
「来年開校なんだ。ストックがいくらあっても足りないくらい売れるぞ。学校側は規則で認めないだろうが、もともとが魔法界のものは性行為に緩和だ。できれば産めばいい環境で育ったからね。規則で縛っても縛りきれないならまず問題になるのは子供の存在だからさ、避妊薬は売れる。性行為がひとまずなりを潜めることはない。人間界と違って血統と愛と子孫の繁栄を重視する考え方が変わらない限りね」
「ふーん。そんなもんかね。なら堕胎薬もいるな。作るのが難しいが…学校に居る間は子どもは厳禁なわけだろ?ほら、どうだ。今度は合格出る作品だろう?」
「うん。なかなかいいできだ。しかし加護を強める封鎖花と祝福の種の調合はもっと多くっていい。失敗ギリギリまで増やすんだ。その代わり封印をとく結界をよせつけない魔法の牙と結界ほどきの眼球の調合は逆にギリギリまで減らしていい」
「そんなことしたら解けなくなるぞ?」
「加護結界は解けなくてもいいんだよ。必要なら加護結界のほどき玉作ってやるから」
「まー、マラーが居なきゃ長女のスワリーに頼めばいいんだがな。多額でフォレストを出し抜いて個人でお前から買ったくらいだ秘術として持っていく気だろうさ」
「まさしく秘術に値する魔法だからね」
「もうひとつ、フォレストには蘇生の術があると言ったなお前が売ったのか?」
「そんな物騒なもの僕は売らないね。だけど僕でも作れる。ならばフォレストの歴史の中にならあるさ」
「たかだか500年続いてるだけの歴史だ」
「だけど錬金術師の一家としてはだんとつで続いている一家だよ。規模も大きい。毎回、直系のほとんどが20人近くの子供を産むんだ増えるわけだよね」
「お前だって18人兄弟の三男坊だろうが三歳で工房借りて独学でのし上がって来た異才児だ。金には困らない成り上がり商人の息子のくせになにとち狂ったんだ?」
「子供の頃からアイテムとアイテムを合わせるとなにかできないか考える子供だったらしい。父が才能を見極めて工房を借りてくれなきゃ今の僕はいないよ。だけど僕は母の16歳の子だ。長兄は12歳で生んでる。学校が終わるのが18歳。その間禁欲生活も身につくものは身につくだろうから魔法界の人は激減するよ。王族、貴族が横暴にでなきゃいいと心配しているね」
「金を持ってるから仕えてる。魔法も使えない連中など暴動が起きれば死ぬだけさ」
「まぁね。明日も帰ってこないんだろう?来るよ。それまでに加護結界玉、もう一度作っとけ」
「冗談だろう六日はかかる代物だぜ。これから明日までに?」
「基本材料の調合は全て終わっているのだろう?ふたつ調合調節しなおして釜で煮るだけだ。今だって1回4時間で作って見せたじゃないか。自分の才能を信じなよ。僕は君を高く評価してるんだからね」
「調合より調整の方が難しいんだぞ。まぁ、いい、やったろーじゃないか」
「そのいきだ。僕なら調合から煮込みまで6時間ですませるけどね。じゃあ、また、明日」
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