マラーの工房~魔法使いになりたくて 外伝

御等野亜紀

蘇生の薬

「お願いです。この子を助けてください。フォレストの力で生き返らせてほしいのです。まだ三つ、余りにも死ぬのは早すぎます」

「そうは言われてもな。フォレストにもできることとできないことがあるんだよ。だいたいさぁ、病死だろうと事故死だろうと戦死だろうともだ、生き返らせるわけにはいかんだろう。毎日世界中で何人の人が死んでるかわかんないんだぜ。老衰以外、皆生き返らせろとでもいいたいわけ?身内なら誰でも蘇生を願うよ。だけどそれは不可能だ。選別が出来ない。選ぶ基準をどこに持っていっても不公平が出る。蘇生の魔法なんてないに限るんだよ。だから悪いけどフォレストにも蘇生の魔法はないよ」

とリルケスが言った。

もともとこんなややこしい話をする柄じゃない。錬金術に家に残ってなければとっとともっと頭の切れる兄弟にまかせている話だ。

しかしフォレストの直系は研修も兼ねて総出で家族旅行にでていってしまっていた。リルケスも誘われたが課題の加護結界玉ができあがらない。他所で作られた子という負い目もあって直系の行事はできるだけ遠慮していた。

というより遠慮しないことには自分の肩身が狭かった。蘇生を頼んだ女が充分に離れた後で遊びに来ていたマラーが言った。


「僕の予測が当たっていれば蘇生の秘薬はフォレストに存在するよ」

「冗談だろう?確かに俺は普通の直系とは違う。だけどそんな話なんて聞いてない」

「フォレストがどれほどの禁術を抱えていると思う?それは両手では数え切れないほどだ。全員が全員全てを知っているわけじゃないだろうが分担して禁術は引き継がれてると思うよ。蘇生の秘薬もたぶんその中の一つにあるね。ほぼ間違いなく」

「それは考えたことも聞いた事もなかったな知らぬが仏ってやつか。やっぱり兄弟の中でも俺は異色なんだな。だがさ蘇生は出来ない。それは真実だ。ならば死ぬ前に助けられる魔法があればいいと思うのにとか俺なんか思っちまうんだがな。少なくとも戦闘では役に立つ」

「死ぬ直前を助ける魔法か。それは僕としても興味深いね。考えてみよう。それよりその調合薬二つは逆に入れたほうが成功しやすいんだが誰も教えてくれないのか?リルケスもリルケスだ同じ失敗何度したら気が済む」





マラーはリルケスより三歳年下だったが独学でフォレストの直系たちを一歩だしぬいている。そのせいもあってかフォレストでは特別扱いの客だった。

能力を気にせずに気楽に喋れる相手というのがリルケスなのだ。

リルケスは父親が伴侶以外の女との間に作ってきた子供で純潔には変わりないが錬金術からはほぼ遠い占い師の子供だった。母が出産時に死んでしまい仕方なくフォレストに連れられてきた赤ん坊なのだ。そのせいかフォレストの中では一歩遅れて錬金術を身につけるとろい子だったが出来上がる品物は一級品で、そのせいでフォレストでも引け目無く育てられてきた。

だがフォレストには基本手取り足取り教えるという感覚はない。なので時として今みたいにマラーに言われるまで自分がどこで失敗してるのかわからないことがままあった。

「わかってるなら、もっと早く教えてくれてもいいだろうに…朝の四時から悪戦苦闘してたんだぜ」

「僕は独学だよ。何がどこまで正しいかもわからない。腕一本が頼りなんだからさ」

「そーいや、工房の方はどうした?やっと自分の工房を建ててるんだろう」

「ああ。借りてた工房じゃ質の管理もできなかったからな。最高級の工房を建てているよ。その為にリルケスたちからも寄付金募ったのだしな。17歳で自分の工房が持てるんだこんな幸運なことはないさ」

「だが工房は重要だ。いい工房さへ作ればお前なら今の3倍の力を発揮できる」

「だろうね。僕はフォレストのような血筋こそないものの。その気になればフォレストを抜きに出るくらいのことはできるつもりだよ。それでさっきの話に戻りたいんだけどいいかい?」

「なんだよ。話を戻すって?」

「蘇生が駄目なら蘇生前に助けてしまえって話だよ。出来るだけ強力なのがいいそこらの治癒魔法の材料じゃ無理だろう。それもふまえて何かいい材料はなさそうなもんかなぁ?」

「奇跡の花マリアリリーと魔法界の聖なる大地の二つじゃねぇ?」

「マリアリリーは確かに死掛けた者も癒すと言われてるが群生地どころかその一輪だけだろう咲いてるのは。材料としては役に立たないね。聖なる大地は効力は劣るがいろんな生き物が傷を治しに行くまさしく聖地だ。そこになにか秘密があればいいんだけどなぁ」

「行くのか?」

「独学の強み。行ってみるよ。なんか秘密がさぐれるかもしれない」

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