35話 望んだ状況 臨まぬ状況
「あ~、ヤバいな、アレは実に危険だぞ」
フィズの呟きに僕もホロニグの奴を見上げながら、その光景を見つめる。口元だと思われる場所に集まる炎の球が、太陽みたいにまん丸の巨大な球体が出来上がっていく。
「つってもなぁ。逃げるわけにも、基、逃げるの嫌いだしな」
あの高さでは、こっちの攻撃は届かない。
「あんなの、止めないと……此処だけじゃなく、町の人達がっ!」
リエナ一人、なんとかしようと地面に魔法陣を描いて、魔術を真上に放つが遠い分だけ威力が落ち、破壊力も無い攻撃はホロニグの炎の球体にかき消される。
高笑いを上げ、何やら言っている様だが、僕等から離れ過ぎているせいで聞こえない。
「こいつ、試してみるか……」
ナエ婆から貰った細長いカードを取り出す。
「でも……使い方、分からない?」
「あぁ、貴様が燃やしたせいでな」
僕の一言にリエナが小声で「ごめんなさい」なんて言いながら、シュンっと落ち込む。
フィズは何かを考え込んでいるのか、ホロニグの方をジッと眺めて何やら思いつめた顔をしながら、唸っている。
「まぁ、使い方は多分、一緒だろう……ただ、マナ弾で試し撃ちした時は反応しなかった」
つまり、己の精神力を込めたオーブ弾なら、多分、反応する。
トップブレイクさせ、シリンダーにオーブ弾を全て込める。
「相手が空中で止まってるなら、当たるはず」
自身の真上に天高くカードを投げ、集中して両手でしっかり握り引き金を引いた。
オーブ弾がカードに吸い込まれるように入っていく。
宙で風を生み出すしながら凄まじい勢いで回転し、神々し音が辺りに響き渡る。
「でりゃぁあああぁぁあ」
押されないようにするだけでなく、今回はカードの力に引っ張られないように耐える。
リボルバーを握る手に力を更に込めて、両足で踏ん張り、
銃口の先に神経を集中させて、視線は真っすぐホロニグへと向ける。
急にリボルバーから伝わってくる衝撃が、ぱたっと消える。
耐えきった? と気を抜いた瞬間だった。
激しい破裂音と共に、一気にリボルバーの銃口から圧縮されたような緑色の光の塊と風が、空気の壁を切り裂くような音を上げ、天高くホロニグに向かって飛ぶ。
「……当たる?」
ホロニグが留め、溜めている炎の球体を突き抜けたが、かき消す事は出来なかった。
けれど、ホロニグの左翼を撃ち抜き、耳をつんざく様な悲鳴が響き渡った。
「死ねぇ~~えぇえぇ~~、愚か者どもめェ!」
「クソっ、だめだったか」
流石にあの密度では、リエナにゴーレムをつくらせた所で無意味だ。
「ん~~、いやしかし…………仕方ないか。楓ちゃんが死んでは元も子もない」
こんな時だというのに、フィズは何を冷静に考え込んでいる。
「おいっ! 貴様も何かっ――」
「失礼っ、ん――」
「ふむゃん―――――――――――――――――――!?」
突然、抱き寄せられ…… 僕の唇を奪われた。
すぐさまジタバタと暴れるが、問答無用で抑え込まれる。
まるで何かを吸い出されるように、口の中を吸われ感覚に見舞われる。
「ぷはぁ、久しぶりの感覚……さて行きますか」
パッとフィズに解放されて、地面にへたり込む。……吐きそう、だ。
そうして、口を手をみるとさっきまで見慣れていた華奢な自分の手ではなく、懐かしい感じのする。
少し男らしい手であった。そして、胸も無い。
「戻った? ……戻ったのか!?」
「うそ……本当に、男の人?」
驚いているさなか、フィズが大勢を低くして地面に手を付き何かを詠唱しだした。
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「さぁて、コイツで決める……魔王の力、見せてやるぜ」
手の平のまま地面に手を突っ込むと、巨大な水柱が周りの地面から立ち昇る。
「町はどうでもいい、世界が滅ぼうとも構わんが…… 楓ちゃんに害するモノは排除する」
ジャンプする瞬間にフィズが居た地面が、蹴り砕かれる。
「フィズのやろ~、勝手に僕の得物をっ! アイツは僕がぶっ飛ばすんだ」
楓が一心に城の方に向かって走りだす。
《水氷魔神奥義、水氷爆龍破列派》
ホロニグが生み出した炎の球体を、フィズを龍の様に纏う水流が一気にかき消す。
霧に変えて辺りを凍りつかせる。
「な、まさか本当に! 嘘だ、さっきまでは、なにも。な、なぜ貴方の様な方がいるっ!」
「お前が知る必要はない、朽ちて死ねっ!」
フィズの水龍がもう片方の羽を食い千切り、鉄砲水の様な勢いの拳が叩きつけられる。
そのまま城に一直線に落ちていくと、思ったが。
「ちょっとちょっと! 落ちてくんじゃないっ! アタシの宝に傷がつくでしょうっ!」
《フリム・バースト》
真上に向かって、凄まじい密度の火柱を上げた鳳凰を思わせる様な鳥の形の炎を、フィズの水龍にぶつける。
ぶつかりあった衝撃波が辺りを襲う。
「このままじゃ、町に被害がっ!」
リエナが身体を回して円を描き、その中央にただ杖を突き立て、腰から吊るしていた本を手に取る。
詠唱を唱えだす。
《ファルゼン・ゼイボルド》
地面から大きな鎖のよ様なモノが幾つも飛び出し、
その中央を巨大な亀の様な甲羅のついた獣が掛け抜け、ホロニグに突進する。
「っち、このままじゃああわない。こうなりゃあヤケだ」
楓が自分の後方目掛けて一発、ぶっ放すとその勢いのままホロニグの真下を通りぬける。
「どいつもこいつも、僕の得物を勝手に……最初に喧嘩売ったの僕なんだぞ」
さっき撃ち抜いたカードを取り出しすと、先ほどまでとは違い綺麗な絵柄が出来ていた。
そこには、ゴッズ、ブレイスと書かれたた、風を纏った様な鳥の絵柄のカードだった。
楓はそのカードを投げて、
《ゴッズ・ブレイス》
と叫びながら、ホロニグに向かって打ち込む。
「あぁ~、何をしてるのっ!」
リエナの叫び声が楓の方まで届く。
「るせぇ、コイツに勝手に手出ししてんのは貴様だろうがっ!」
左右上下から、其々の属性がぶつかり合う。
「ちょっとぉ! アンタ等は向こうで戦いなさい、よぉ!」
ラミュからの一撃が一層に強まる。
「ラミュさんっ! 城の中でなにしてるんですっ、かぁっ!?」
「ゲッ、リエナまでいの……しまった、お堅い感じのあの子に知られると、後が面倒なのよね」
「ズルイぞ……俺だって欲しいもんがあるんだ、あぁ~~、おまえ、それよこせっ!」
「イヤよ、ここにあるお宝は全部アタシが貰うて、決めてんだから」
「泥棒か貴様はっ!」
「ラミュさん、貴方は良い人だと思ってたのに、見損ないましたっ!」
今度はリエナの魔術の威力が上がる。
「こ、これにはちょっと事情があるのよ、誤解しないでよリエナ~」
「ソイツを、寄こせラミュ。でなければ、このままホロニガイ共々、お前を潰すぞ」
続いてフィズの水龍の威力が増していく。
「その・まえ・に、貴様が死ねぇ。僕の、僕の唇を汚しやがって……始めてだったのに」
楓は涙目になりながら、怒りのあまり力が入ったのか……威力が増す。
「って、ちょっと、このまま続けたら」
「あ、えっと……最高位術の四代元素ッ!?」
「……撃っちゃった術は、突然には止まらなねぇな~」
「あん? どうなるってんだ!?」
ただ一人、楓だけは状況が把握できずにいた。
「どうなるって、アンタ……」
もうこの状況に諦めと呆れのため息を漏らす、ラミュだった。
「見てれば、判る?」
これからどうなるか、想像出来てしまうリエナは涙を流しながら、小刻みに震え。
「これ、俺が一番、被害、でかくないか……なぁ」
もう誰にも助けをこえないフィズは、笑うしかなかった。
四人の力がホロニグを中心に収縮していき――
ボオォォォオオォォォォ~~~ン
という、大爆発に巻き込まれていく。
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