34話 望んだ状況 臨まぬ状況
楓にやられた時に、フィズは無意識に刀の鞘で銃弾を受け止めていた。
普通なら壊れてもおかしくない魔術の威力だったのに、鞘は無傷。
それどこか、異様な光を纏って楓の放った攻撃を吸収していったのだ。
そして吹き飛ばされた先で刀剣を探し出し、収めてみると今度は鍔が光、回転しだす。
魔法陣に用いられる属性印が浮びあがって、抜刀してみると風の力を帯びた刀身が現れ、斬撃をなぞる様に、刃となって遠くまで飛んでいった。
――そう、今のホロニグの攻撃を吸収した、こんな感じに――
フィズは脇をしめ、腰を少し落とす。
鍔を親指で軽く押し上げて少し体を引く様に、
一気に引き抜く。
刀身を引き抜く瞬間、耳元にボゥと炎独特の音と、熱気を感じた。
「な、なにぃっ!?」
「お返しするぜ、その程度の炎だけどな」
ホロニグの腹目掛けて刃の様な炎が飛んでいく。
フィズの出した炎の刃をかき消そうと、
同じ炎の球をぶち当てるが逆に吸収して更に威力をましながら、慌てて避けようとしたホロニグに直撃する。
破裂音と爆煙が上がり、爆風が辺りを駆け抜ける。
爆煙の中から、うなだれた様子で手をぶら下げて浮いているホロニグが見えてくる。
「は、はは、あははは。最高だ、最高に最悪な気分だよ。もう、こんな国どうなっても良い、新しく作ればいいんだ。虫けらガァ、調子のりやガッテェ~、踏み潰してヤルよ」
「ついにブチ切れたか。お楽しみはこれからってところだな」
人の形から、異様にローブの中が盛り上がっていく。
「やっと本気か、なるほど……あのオバサンの太ったドラゴン、何処から来たのかと思ってたんだが、お前が連れてきたのか……フ―リッシュドラゴンか? それも上位のな」
背中から翼が生え、人の形からトカゲの様な尻尾や頭に変形していく。
「その名で呼ぶなっ! 人間ごときに、この姿を晒す屈辱。死をもって償ってもらう」
「ホロニグ!? や、やめろっ――」
「貴様はどこ見てんだっ!」
高々にジャンプしていた楓が大鎌を振り回して、サブルに襲いかかる。
「このっ! いまはお主の相手をしている暇は、くっ――」
「僕の知ったことじゃないね、早くしない得物が盗られちまいそうなんでな」
「お前はこの国がどうなっても、良いというのか」
振り下ろされる鎌を、なんとか剣でセブルが防ぐが、楓はそれを利用してまた上に飛ぶ様にして何度も鎌を振り下ろしたり、薙いだりとクルクル身体を軸にして攻撃を仕掛ける。
「あぁ、別にどうなってもかまわね。元々、関係ないしなっ!」
防ぎきれなくなったサブルは、バランスを崩し剣が弾き飛ばされた瞬間、楓は鎌の重心を利用して身体を回転させ、サブルの溝に向かって力一杯に拳を振り下ろす。
悲鳴も苦痛の声も上げる間もなく、地面へと叩きつけられる。
楓は身体を丸めて猫の様に鮮やかに着地する。
「たす、助げ、で…… ごほっ、うぅ」
「っち、あっちの奴と違ってただ魔神の力を宿しただけで、操りきれてる訳じゃないのか」
瘴気の様な黒い霧がサブルから徐々に消えていく。
「ただ力のデカさに当てられて、酔ってただけ……か?」
楓は様子を見ようとゆっくり近付こうとするのだが、サブルとの間に急にフィズが飛び出してきた。それも、巨大な空を飛ぶ影を連れて。
「あち、あちち、あぢぃ~~っ!? だぁああぁあああぁ、ブレスは流石に無理だって」
空飛ぶ巨大なドラゴンの影は、火を口から吐きながらフィズを襲っていた。
楓の方まで熱気が届き、肌が焙られるように熱かった。
「ふはは、ん~? おぉ、サブルか……はんっ、情けない。お前の様な奴にはやはり魔神の力など勿体無かったな、丁度腹も減った、お前の力はこの私が頂いてやるわ」
「や、やめ、ろぉ。ホロニ、グ」
地に落ちたサブルを見つけたホロニグが、大口を開けて地面ごと抉って口に頬張る。
その一部始終を楓はただ見ているしかなかった。
「……貴方の好き勝手、これ以上はさせない」
後方のどこからか、リエナの声が響く。
ドッシ~ンっドムンッドンッ――と、楓の後ろから物凄い大きな足音が聞こえてくる。
そして、轟音のような音を立てながら頭上を何かが通り過ぎた。
岩で出来た巨大な拳だった。
拳はホロニグの土手っ腹を殴り飛ばし、飲み込もうとしていたサブルを吐きださせた。
「がはっ、グはぁはぁ……だ、誰だっ!?」
ホロニグと大差ない大きさのゴーレムの肩には、リエナが立っていた。
「糞がぁ! 小娘の分際で邪魔をするなぁ」
ホロニグは己の尻尾を振り抜き、ゴーレムを砕いた。
「私、決めたんです。私はやっぱり人の為になる事がしたい、それにはどうしても強さがいる。でも今の私にそんな力はなし、強さもない。でも、その強さや力の使い方を間違えた人を見つけた、真っ当にさせたい人が目の間に現れたっ! だから、此処で諦める訳には、いかなくななっちゃったのっ」
崩れ落ちるゴーレムの胴体にバランスを崩しながらも魔法陣を描く。
その陣を杖の先を思い切りよく叩きつける。
《ロッズランス・バスタァー》
リエナの描いた魔法陣が胴体部分から中に広がり、周りの崩れ落ちる岩も宙に一瞬だけ止まると、針の様に先が尖り、次々にホロニグに向かって飛んでいく。
無数に飛んでくる、岩の嵐にホロニグは防ぐ事に精一杯で追撃の余地などなかった。
「おぉ、やるねぇ~。でも、そっからどうするっ気だ、リエナちゃん」
落ちてくる彼女を、清々しい笑顔で上を見上げていたフィズがそう言って楓の方を向く、その声を聞いて始めて楓がハッと我に返る。
「無茶苦茶だな、貴様はっ!」
楓は気付いていなかった。
リエナが落ちる瞬間から上を見上げて走りだしていた自分自身に、
だから、フィズよりも、誰よりも先に空中でリエナをキャッチしていた。
楓の腕の中でギュッと目を瞑って、身体を固く丸めていたリエナがそっと瞼を開く。
「……二回目?」
「あ? なにが?」
「こういうシチュエーションで助けて貰ったの?」
「アホだろ、おまえ」
勢いのまま楓は着地して、地面を滑るような勢い殺してなんとかフィズの横に止まる。
「羨ましいなぁ~、良いなぁ~。俺も楓ちゃんに抱かれて助けられてぇ~」
無言で楓はフィズの足を踏みつける。
「いだぁ~~、あぁ、うぅ」
その間に楓の腕からリエナが降りた。
「え? なに?」
「気にするな」
涙目で楓の方を睨むフィズを、不思議そうな顔でリエナが見る。
「キサマァラァ、鬱陶しいんだよぉ。邪魔くさい、邪魔くさい、消え去れぇ~~~」
大きな翼を広げ、ホロニグが叫びながら高々と飛び上がる。
「ナメヤガッテ、地を這うようなゴミの分際で、私に、この我に楯突きおって。生かす価値もないようなヤツラガ、ズニノルナァ」
楓達の周囲を陰で覆い隠すような巨体が小さくなるほど飛び上がり、その先でホロニグが大きく息を吸い込むように口元に高密度のマナを集め始める。
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