33話 望んだ状況 臨まぬ状況
「っち。面倒なバリアーだな、くそがっ!」
楓はがむしゃらに結界に襲いかかる。
「ていうか、魔神器で撃ったのに壊れないってどういう事よ。あの結界、普通じゃない」
「あれは、我が城の下に眠っていた。遺跡にあったものなんです…… 貴重なモノってことでこの城で保管をしていたんですが、ただのガラクタだと思っていたのに、いったい」
「それじゃあ、アレは魔神器?」
「いえ、なんか。昔、城にいた呪い師の方は、封印の器って言ってました」
グーレの膝の上で寝ていたイズリが、喋れるようになったのか、ゆっくり口を開く。
「あれ、には。はぁ……魔神の力が封印されている、と。聞いた……はぁはぁ。フィズ殿の持つ刀剣が起動カギで、力の封印を破るカギは……」
イズリが楓の方を向いて、指をさす。
「もう一方の、楓が持つリボルバー!? ちょっ、止めなきゃ」
そう言っている間に、もう楓はリボルバーを構えていた。
「どうしたのですか? 貴女の持つ魔神器を最大限の力で撃ってくれないと壊れないと思いますよ~。あぁ、貴女じゃあ扱いきれないでしょけど」
「あぁ! んだと、さっきまで使ってたのはマナ弾だ。本当の力っての見せてやるよ」
リエナは楓が持つ青白く光る弾を、リボルバーに装填するのを確かに見た。
「ダメ、撃っちゃダメっ!」
頭に血が上っている楓に聞こえる訳もなく、その一発を王とローブの奴目掛けて撃つ。
楓の撃った弾は、国王達を守る結界に反応するように光、ぶつかり合う。
「やば、もう無理そうね……逃げるわよっ!」
「でもっ! これじゃあ」
「諦めなさいっ! ゴーレムで他の連中も運ぶ方が先よ。この人達を死なせたいの!?」
「何でこんな事にっ!」そうリエナは悔しそうに零しながら皆を運び、逃げ出していく。
「これだ、コレを待っていた……あははは、力が湧いてくるのが分かる」
「ほほほ、これが魔神の力というものか、凄いですなホロニグ殿」
「サブル、一つ提案なんだが」
「なんです? いや、言わずとも……ふふ、この力、試したいですしなぁ」
「ここには丁度良い実験台は、沢山いますしね」
どす黒い霧の様なモノがサブルとホロニグを包み込んでいく。
リエナ達が外に出てみると、空は暗雲が立ち込め嵐の様な黒い風が巻き起こっていた。
彼女達が城の方を向き、悔しそうにしてると。
逃げてきた場所辺りから爆煙が巻き起こり、一つの影がリエナ達に向かって飛んでくる。
駆けつけようとしたが、間に合う訳もなく。
彼女達の手前に落ち、砂埃を巻き上げながら転がってくる影は、楓だった。
「アンタ、大丈夫――」
ラミュは急いで治療しようと駆け寄る前に、リエナが走り出していた。
「貴方の……貴方のせいですよっ! こんな、こんなことになって、どうするんですっ!」
胸倉を掴んで、涙ながらに怒鳴り声を上げる。
「ちょっと、止めなさい怪我人相手に、気持は分からなくないけどさ」
ラミュが仲裁しようとするが、楓の姿に、その目に動きが止まる。
「うるせぇ……どうするか? んなもん決まってんだろう。アイツ等をぶっ飛ばすんだよ」
明らかにボロボロにやられた後だと言うのに、胸倉を掴んだリエナの手が痛くなるほどの力で振り解き、何事も無かったかのように立ちあがっる。
「アイツら、魔神の力を手に入れてんのよ。どう戦うってのっ!」
「そうです、魔神は神々の力があってやっと封印したような相手で――」
「んな過去の話し、別に聞いちゃいないんだよ。どんな力を手に入れようと、勝てば良いんだろうが、お前らの考えは一々小さい……どうすんのか? んなもん戦いながら考えればいい、自身が起こした事に別に言い分けなんざしねぇよ。だが、それで落ち込んで逃げてちゃ謝罪も出来ねぇし、相手にもワリぃだろう」
一瞬、リエナを一瞥して近くに落ちて刺さった大鎌を引き抜き、肩や腕を回して体中を調べると、そのまま城の方へ向って走って行ってしまう。
「さて、諸君はどうする気だい?」
不意に後ろから、聞きなれた明るい声が聞こえた。
「あ、アンタ、死んだんじゃっ!」
「はっはっは、俺があの程度で死ぬ訳ないだろう…… けど、痛かった、すっごく痛くって効いたけどね。まぁ、おかげさんで体は自由に動くようなった」
高笑いしながら、ゆっくりとフィズが城の方へと向かおうとしていたが、
「どするって、それは……杜人として」
そんなリエナの声が耳に届き、足を止めてリエナを真っすぐに見る。
「リエナ、キミは自身でコレがやりたいっと決めた事はあるか? ないんじゃないか?」
「へ、あの? そんなことは……」
そこまで言って、それまでしか言えず、次の言葉がなにも出てこない様子だった。
「ここに居ても、あの王とホロニガイの魔力や力が直で感じ取れるほど強い……普通なら足がすくんで当然だ、躊躇があって当たり前、それが普通だ、ないも気にする事はない。けれど、自身が強くなりたいと望むのなら、その先に進むしか道はないぞ」
フィズの言葉に、リエナの視線が泳ぐ。
「自身の強い遺志が無いのであれば、さっさと身支度を整えて逃げ帰るといい。温かい布団や慰めてくれる者達がいる、村でヌクヌクと、なにもせずに暮らせるぞ。きっと最高にツマラナイだろうが、な。俺としてはその方が有り難い、ライバルが減るからな」
フィズは冷たい目でリエナを見下すように見ると、まるで飛ぶ勢いで楓を追いかける。
「まったく、か弱い女の子になんちゅう物言い……けど……」
ラミュはリエナに掛ける言葉が分からない。いや、無いと言った方が良いのかもしれない。それは、二人が言った言葉をラミュ自身も親身に受け止め、間違ってないと思ってしまった一人として、なにも言えないのだろう。
「ごめんね、アタシも行くわ。このままにしとけないし、この国の連中好きだし」
たった一人、リエナだけがその場に残された。
――私が此処にいる理由? 杜人だから、だから付いてきたのか……本当は、違う……
違う、私は杜人の巫女だから、だから御婆ちゃんに言われて 言われて来ただけ?
それも違う、お婆ちゃんは「外の世界を見てきたら」って言っただけ 私は、なぜ?
変えよと思った? なにを? 自分を、だ…… 弱いのがイヤだった、
臆病な自分が嫌いだから、変えようと思ったの それに、力も強さの光も持ってる
そんな楓が羨ましくって、それなにあんな性格で 魔神器にも選ばれて、憎かった。
でも、あんな風に堂々と出来たらって、強くなれたらって。でも――でも……
今はそれ以上に、あんな楓の無鉄砲で無計画、その上、誰かれ構わずに傷つける様な彼を変えてやりたい。私が、始めて心の底から憎らしく妬ましいと思った彼を、私の手で構成させられたら、どんな自身にも繋がる気がする。
「ふはは、無駄ですよ」
「にゃろ~、ふわふわ飛びまわりやがってってよ!」
「おぉ、やりおるわい」
後ろから飛んできた火の弾を大鎌の柄を上手く体に這わせるように回して、弾く。
「どうしたのです? 銃をお使いになれば良いのに」
「そうそう、アレは脅威ですしなぁ」
「るせぇ、ハエみたいな貴様等に使うなんて勿体ねぇだろう」
実際にはちょこまか動かれたんじゃあ、命中させる事は難しい。
威力が強すぎ制御するにも、動きながらじゃあ厳しいし、残りの弾の数は三発だけ。
練習やら調子に乗って撃ちまくったせいで、マナ弾はもうない……残るは、制御の効かない、扱い方もよく分からないオーブ弾のみである。
「ま、地べたを這いつくばってしか生きられない貴方には、攻撃を当てる事自体、難しいですかね。銃系の魔術は軸さえずらせば、簡単に避けられてしまいますし」
「そうですなぁ、あははは」
僕を小馬鹿にして、見下すような目でこちらを睨んでくる。
「その減らず口と余裕の笑みをどん底に叩き落としてやるよ。まってな」
「いやはや、この圧倒的な力を前に――」
ホロニグの真後ろから音もなく、黒煙の中から人影が現れた。
「余裕か? ここ戦場だぜ。それも、お前等から喧嘩を売ったな」
そんな事を言いながら、刀を振り下ろし切りかかったのはフィズだった。
「ぐっ!! なぜっ!? 死んだはずではなかったのか!?」
背中をざっくりと斬られ多様だが、なんとかギリギリのところで、体制を変えて前へ飛び退いた御蔭か、致命傷には至らずに空をフラフラと飛ぶ。
フィズは着地する前に、鮮やかかつ速やかに刀を鞘に収めてから、地面に足を付ける。
「知らないのか? 愛ある一撃はな、どんなに強大な力だろうと死にはしないんだぜ」
「さすが、ゴキブリとトロールを組み合わせたような生命力だな」
僕は半ば殺すつもりで撃ったのに、けろっとしてやがる。
「酷いなぁ、ピンチにさっそうと登場する、ヒーロー様に向かってなんて言い種だ」
「ピンチじゃねぇし。手助けなんかいらないん――」
「そう言うのは解ってるんだけど、悪いがあのローブ野郎をお前に譲る訳にはいかない」
「――だ……あ? なんだ、邪魔する気か?」
「そうだ、あのヤローは俺様がぶっ潰す。邪魔するなら楓ちゃんと言えど敵とみなす」
「ふん上等、なら先にデブ王をぶっ飛ばして、それでもまだ奴が生きてたら僕が先に消す。……というか、貴様は一々、僕の前に立つんじゃない」
フィズと肩を並べ相手を睨みつけてやろう、と思った時だった。
「ふふ、これが初めての共同さぎょ、おぶっ!?」
気持ち悪い事を言う間に、鼻の下を伸ばした馬鹿顔のフィズを大鎌の柄で小突く。
「この、私に一撃をくわえ、その後は無視。おちょくられた、ものですねぇ~~」
「そんな動かれては、治療が出来ないぞよ」
「うるさい、そんな事はもう良いのですっ! あのゴミ共を灰にしますよ」
なにをもたもたしているのかと思ったら、回復に専念していたようだった。
「お~お~、頭に血が上ってんのか? 顔が真っ赤になってんぞ」
「これは元々だぁ~~! お前はもう二度と口を開くんじゃあないっ!」
ホロニグが右手を翳すと、なんの詠唱も無しに火の弾を次々と生み出して放つ。
僕は慌てて左に逃げるが、フィズは刀の柄に手を添えて突っ立っているだけだった。
「なにしてるド阿呆っ!」
「ははは、死ねェ~馬鹿めがっ!」
眼前まで迫った炎の球を、フィズが刀の鞘ごと叩き割る様に潰していく。
「使えないモノだと勝手に思い込んでいたが、楓の御蔭でコイツの使い方が分かった」
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