32話 望んだ状況 臨まぬ状況




 最初に向かった先は王の間だったが、そこには誰もいなくって色々と探した結果、宝物庫辺りに皆が集まった。


 まさかフィズの奴がもう城の中で暴れていたのかとも思った。

 それにしてはどこもかしこも戦闘の後はなかった。

 むしろおかしな程に静まりかえっている。


「おい、この城って普段からこんなに誰も居ないのか?」


「いえ、普段は何処を歩いていても、兵士やお手伝いさん。あとメイドさんが居るはずなんですけど…… こんなこと、始めてです」


「そうね、アタシが此処に来た時はもうちょっと、にぎやかだたわね。夜に来たらお化けの住み着いた屋敷みたいな感じで、何か出てきそうな感じがして、すっごくイヤ」


「……それは、ちょっと見てみたい、かも?」


 全員が宝物庫前の大きな扉の前で、其々の感想を述べる。


「で? ちなみに宝物庫ってのは、こんなに無防備に開いてるもんなのか?」


「はは、まさか…… おやおや、おかしいですなぁ。開いてますねぇ」


「ねぇちょっと、なんなん、これ? アタシらって灯りに群がった虫かなんかなわけ?」


「飛んで火に入る夏の虫的な? まぁ、馬鹿にされてるのは何となく解る?」


 フィズの企みじゃないのは、何となくわかる。

 奴は手の込んだ事はしてくるが、あからさまな感じの罠は張ったりしない。

 そう言う場合はだいたい真正面から襲ってくるはずだ。


「まぁいいや、面倒だし行くぞ」


 僕が宝物庫の扉に手を添えると、「え、本当に行くの?」みたいな感じで他の全員が見る。


「オーケー、じゃあ、ぶち込んで踏み込むか」

「あ、いや、悪かったわよ。行くって、だから普通に開けて良いからっ!」


 もう、聞く気はない、魔法陣を描いた厚紙を空に回転させて放り投げる。



 そのままリボルバーを引き抜いて構え。足腰にしっかり力を入れて重心を保つ、グリップは少し軽く握りながらも手はちゃんと固定して、銃口の先に来た魔法陣の描かれた厚紙を撃ちぬくようにして、引き金を引く。



 反動で両手が上がって万歳する感じになってしまったけど、今回はちゃんと狙い通りに、それも威力も十二分な風の力を纏った弾丸が真っすぐに飛んでいく。



 弾丸部分が扉にぶつかると、その中央から抉り切る感じで扉が吹き飛び、横に伸びる竜巻となってそのまま宝物庫の中へと伸びていく。



「あ~あ~、なんってことをしてんのよ。これじゃあお宝盗み放題じゃない」


「ご、豪快です、ね。あ、あはは、はは…………ラミュさん、盗みは犯罪ですよ」


「そ、そんなことしないわよ、や~ねぇ」


「鏡でご自分の顔を見てから、そのセリフを言って下さい」


「まぁまぁだな…… 実戦じゃあまだ使えない」


 リエナはパチパチと瞬きさせながら、僕が撃った様と撃ち込んだ先を何度も交互に見る。


「にしても、アレを撃ち込んでもビクともしてないとは。ちょっと思わなかったわ」


「特殊な、結界かもしれません?」


 リエナとラミュの言う事が分からないグーレだけが、小首を傾げた。


 僕が撃ち込んだ部屋の奥に、三人の人影が平然と立っていた。部屋中は僕のせいで散らばったり切り傷だらけなのに彼らの周りだけ、まるで何も起きて居なかったように綺麗だ。


「とんだ挨拶ですね。こちらはお迎えの準備は万端だったのですが……無用でしたか」


 物陰に隠れていたのであろう兵士達は、部屋の端で横たわっている。


「これは……イズリっ!」


 部屋の中を見回し、端の方に倒れていた女騎士にグーレが一目散に駆け寄っていく。


 けど、声をいくら掛けても返事はない。


「ま、まさかっ!」


「しっかりせいっ! 男の子でしょう」


 ラミュはテキパキと女騎士の起動や呼吸を調べて、無事を確認する。


「息は、ある……大丈夫よ、死んでないから。アンタねぇ、だから加減を――」


「加減はしてた?」


「へっ? いやいや、嘘でしょう」


「ううん、間違いない? あそこで加減が出来ていなかったら私達も巻き込まれて吹き飛ばされてるし、余波とはいえこの人達全員、切り刻まれて死んでるはず、でも――」


「彼女は、無傷ですよ」


 グーレが言うように、部屋に倒れている者達全員は確かに誰も血を流して倒れてない。


「強く体を打ち付けただけ? でも――」


 人命第一ってか、そんな暇はないのに。あるいは忘れて要るだけか? 馬鹿なのか、


「敵意ある奴を目の前に、気ぃ抜いてんじゃねっよド阿呆どもがっ!」


 大鎌を降りぬき、リエナ達を目掛けて襲いかかってきたフードをかぶった奴の一撃を、なんとか間に割って入り、真正面から止める。


「って、オメェ……何してやがるっ!」


 身体を軸に大鎌の柄を流す様に回転させて、相手の得物を弾き飛ばして柄の部分でフードをはぎ取ってやる。


「フィズじゃないっ! でも、様子が変ね」


「多分ですけど、暗示系の魔術……いえ、この感覚は、魔法でしょう」


 無事を確認してから、またリエナは女騎士の方を向いて額に右手を乗せて。

 杖を翳しながら、ブツブツと何やら唱え始めた。


「おや、ほぉ……知識に長けた方だ。その魔法の解除方を知っているのですね」


 リエナの持つ杖が一瞬だけ輝き、コツッと軽く手の甲から額に当ててやると女騎士が、ゆっくりと瞼を開き、意識を取り戻したが酷く衰弱した様子である。


「おい、どうするのじゃ。これでは我の立場が危ういぞ」

「お任せを、さぁ、あの女を殺しなさいっ」


 ローブを来た奴の言われるがまま、無言でフィズが突っ込んでくる。



「どうです、知り合いに本気で殺される気持ちは? 理不尽ですよね、そちらは――」



 何やら、ごちゃごちゃと言っているクズは、どうでもいい、


「おい、ウザったいことしてんじゃねぇぞ、一遍死んでこいや」


 僕を無視してリエナの元へと行こうと横をすれ違う瞬間に大鎌を振り回し、体制を崩させてから、腹に柄をひっかけるように打ち込みながら真上にぶっ飛ばす。



 さして、さっきの様に厚紙を投げて、フィズ目掛けて撃ち抜く。


 天井を何枚もぶち抜いて、それ高くフィズが吹き飛んでいった。


「な、に……本当に、殺し……」


 僕のとった行動がよほど信じられないらしい、愕然とした様子でこちらを見てくる。


「おい、んなとこに居ねないで、出てこいや。なんなら、二人できても良いんだぜ」


「なんじゃ、なんなんじゃお主はいったい」


「あぁ? なにビクついてんだよ。貴様が王か? んなわけねぇよな」


「なにを、無礼なっ……ひぃぃ」


 少し睨みを利かせただけで、震えあがってローブの奴の後ろに隠れてしまった。


 ――まさか、本当にこんのが王とか言わないだろうな。だったら拍子抜けだぞ。


「ふふ、ふはっはっは。落ち着きなさい王よ、この枠内に居ればよいのです」


 マジでアレが王なのかよ、やる気が半減だ。


「どうやら、貴女がもう一方の神器の方に選ばれた方のですね。ふふ、伝承とはあくまで伝承ですか……  人族が二人、それも片方は戦いを好む様な人とは、皮肉なものだ……  しかし、これは好都合ですね、いや、まったく。くくくっ」


 人族が二人……何言ってんだ? もう一人は魔族の王を務めた男だぞ。


「気色わりぃ笑いしてねぇで、勝負しようぜ」


「ふふふ、そんな安い挑発に乗るとでも? 私に一撃を加えたいのならこの結界を破ったらどうなのです? そうすればお望み通り戦って上げますとも」


「上等、やってやろうじゃん」


 手始めに軽く四発連続で打ち込んでると、ただ僕の魔術を打ち消すだけで特にないも起きなかった。続けて勢いを付けて大鎌を思いっきり薙ぐが、ガツンッと弾き返される。


 結界内で高笑いを上げている様子が、さらに僕をムカつかせる。




 

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