30話 望んだ状況 臨まぬ状況




 サブル王の元まで行こうと真っ赤な絨毯を半分以上進んだ所で、急に進めなくなった。



 なんとか一歩を前に踏み出した瞬間、その前の床が突如として無くなる。



「うぉ! あぶねっ!?」


 楓との繋がりの御蔭で、多少前のめりにバランスを崩しても落ちる事はなかった。


「な、なぜっ! くそぉ落ちなかった」


 いやぁ、タイミングはバッチリだったよ。あのまま普通に言ってたら落ちてたもん。


 楓の持つ魔神器のせいで一定の距離から離れられないの知らないからな、サブル王が驚くのも無理はない。

 が、なんちゅう危なっかしい真似をしてくれんだろうねコイツは。


 ――それにしても。さすが俺の心の女神だよ、楓ちゃん。


 サブル王が慌てた様子でイスから立ち上がり、物凄く悔しそうに俺を睨む。


「くそぉっ! おい、失敗したぞ、ホロニグっ!」


 さっきのローブの奴の名前だろうか、しきりに叫び声を上げて助けを求め始めた。


「おいおい、一国の主が情けない姿だな」


「なにっ! い、今に見ておれよ。お主の様な奴などアレの力を手に入れれば一捻りよ」


「アレ? アレねぇ…… でもよ、それが何なのか知らないけど、コイツが無いとお前らが欲しがっているモノは手に入らないんじゃないのか?」


 ワザと刀剣をチラチラと見せつける様にして、手元で遊ばせる。


「ははは、安心せい。今にそれも我のモノにしてくれる」


 なんだ? やけに自信満々じゃんか、さっきまでおどおどしてた癖によ。


「今じゃ、やれぇいっ」


 四方の柱の陰から突然、ロープが俺の両足と両腕に絡みついてきた。ロープの先には錘になるようなモノで、小さな爪のようになっていて上手く引っかかる様になっているせいもあって、簡単には振りほどけそうにない。


「あでっ、いででて。痛いって」


 そのまま、ロープを投げつけてきた連中はグルグルの回って俺に紐を巻きつけていく。


「よくやってくれましたね、御蔭でこちらの準備は整いましたよ」


 目の前にゆっくりと、さっきの奴が現れる。


「はははははっ、我に掛ればこのくらいは朝飯前だ。まぁ、落とし穴に気付いていたのかは知らないが、アレに引っかからなかった事には肝を冷やしたがな」


「ホロニガイさんよ、別にこんなことせんでも。俺が欲しいモノをくれれば手は貸すぜ」

「ホロニグです。……貴方には人質になってほしいのでね」


「お前らがどう考えてるか知らないが、俺に人質の価値はないな~」


「それは、どういうことですか?」


 自由の利かない体を少し無理やり動かし、反動とつけて起き上がって座る。


「俺が一人で此処に来てる事自体が証明だろう。どうせお前らの事だ、俺と楓、あとついでの二名くらいのメンバーを仲間か何かと勘違いしてんだろう」


「カエデと言うのは、小さく小生意気な豊満娘の事ですかな……ラミュル・キッドと杜人の娘。これらの者達が貴方のお仲間ではないと?」


「あぁそうだ。つまり、俺を人質に取ったところで奴らは問答無用で、術だのぶっ放してくるぞ。とくに楓なんかは真っ先に俺を殺しにきかねん」


 あ、なんか自分で言ってて、ものすっごく悲しくなってくる。


「貴方達はいったい、何しに此処へ来たんですか」

「なりゆきだなぁ。まぁ、俺はこの国に欲しいモノがあるって話を聞いたからだ」

「遺跡村の人達の為に、ここを訪れたのでは……ないのか?」


 サブル王もホロニガイも、口をあんぐりと開けて驚いている様子だった。


「だからよぉ~、取引しようぜ。俺は日月花草ってもんが欲しいんだ、後はちょこっと宝物庫の中のもん一個だけくれれば、文句はないからよ」



「その言葉に、嘘偽りはなさそうですね」



「し、信じてもよいのか?」



「どの道、この者を連れて行く場所は変わりありませんし、良いでしょう」



「いやぁ~、話の解る奴で助かったぜ」



「ですが、念には念を。悪いですが――」




 すっとホロニガイの奴が俺のお凸に手を当てて、何やら唱え始め――。




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