29話 望んだ状況 臨まぬ状況




「ほう、貴公が魔神器を手に入れた者か」



 無駄にだだっ広い広間。その中央には豪勢なマットの一本道が、これまた贅沢な装飾が施された、座り心地の良さそうな椅子がある場所まで伸びている。


 少し懐かしい感じのする、似たような覚えのある景色だ。

 そして偉そうに、目の前の者達を見下ろす様に座っている一人の男が俺を手招く。


「どうした、近う寄らぬか」

「すまないが、これ以上は進めない。悪いがこの場で話を進めてくれ」


 俺の言っている事に、王様が怪訝そうな顔をしているのが分かる。

 しょうがないだよな~、楓との距離がギリギリ引っ張られない距離なんだ。


「なにを言う、近くに寄らねば話せぬではないか。ささ、遠慮などせずに寄れ」

「十二分に話は出来ているだろう」


 俺はこの国の王様とやらに膝を折る事もなく、堂々と腕踏みをして話を続ける。


「お、おい。フィズ殿っ!」


 イズリが小声で俺に話しかけてくるが、ここは無視する。


「では仕方ない……ちっ。そうだ、そなたが本当に魔神器を持っているのかな? 我に良く見せてほしいのだ、確か伝承に載っていたのは、如何様な物だったか……」


「コレの事か?」


 腰に下げていた刀剣を持つと、周りの兵士達が一斉に俺へ槍や銃を向けた。


 けど、妙な事にその兵士一人として覇気の欠片も感じ取れない。


 それに、一番に刀剣への反応を示したのは、王ではなく。

 王のすぐ隣に立っている、怪しさ爆発のローブの奴だった。

 すぐに王に耳打ちし、何かしらの資料を見せている。


 ただのお付、というには余りに異様な容姿、何よりも奴からは微かに魔力が感じ取れる。

 つまり奴は少なからず、魔族かそれに近い者の可能性が高い。


「ほお、間違いなさそうだな。鞘の装飾から鍔までそっくりじゃわい」

「御苦労、ルーディーさん。もう良いのでお下がりなさい」


 王ではなくローブの奴が命令を下す。


「はっ! では失礼………… あのローブの奴には気をつけろ」


 俺の横をすれ違いざまに、小声でそう言って去っていく。


 ――楓じゃあないが……こりゃあ、この国は色々と面倒な事になってるようだ。

   ちょいと、カマかけてみっか。


「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺はフィズ・ルシャドってんだ」


 そう言った途端、ローブの奴が手に持っていた巻物を床に落とした。


 ――はい、まず間違いなく魔族決定。


 事情の分かっていない王は、何事かと不思議そうにローブの奴を見ている。


「北魔族を統べる王の名を乗るとは、驚きましたね。しかし、それならこの国に入って来た時点で、色々な者達が気付くはず。嘘はおよしなさい」


 色々な者達ねぇ、コイツ一人じゃないのか……。


「おんやぁ~、随分と魔界地の事を詳しいようで。お宅、魔族かな?」

「世界は広いですからね、魔族の血を引く物がどこかに紛れていても不思議は無いですよ」


 俺とローブの奴のやり取りを、何故かビクつきながら聞いている王さまだった。


「アナタこそ何者です、北魔族地の王の名を知っているなんて」


 あ~、そうか、俺ってば今は楓に魔力つぎ込んでっから、魔力が無いに等しいのか。


 馬鹿みたいに使ってからなぁ、気付かないのも無理はない。


「気にすんなや、んでそちらのお名前は?」

「あくまで、王の名を騙ったままで居る気ですか」


 いや、騙るもなにも本人だしな……つっても、一から説明するのは嫌だな。


「まぁ、良いでしょう。私は準備があるので、これで失礼します」


 声を掛けて止める前にローブの奴は、さっと後ろに飛び退く様にして消えた。


 テレポートか……こりゃあ~、かなり七面倒そうな奴だ。


 先際に何か言われたのか、さっきまでのおどおどした感じが無くなった王が、ワザとらしく咳きこみながらも、話を再開しだす。


「ん、ごほっ! 失礼。我はこのカアラ国現国王のサブルという」


 そういや、この城に来てからあの煩そうなオバサン等を見ないな。

 周りをキョロキョロと見まわしていると、サブル王が訝しげに声を上げた。


「どうしたのだね? ……あぁ、君達ももう良いから出て行きなさい」


 俺を囲っていた連中は別にさして気にしていなかったのだが、サブル王が引っ込めた。

 文句の一つも言わず、まるで操り人形のように広間を出て行ってしまう。


 それも玉座に王一人を残して、だ。


「王様さんよ、こんなモノを何で欲しがってんだ?」

「それはもちろん、この国を安泰に導く為だよ。決まっておろう」


 頬が緩み、口元は妙な笑みを浮かべている、あの顔を俺は良く知っている。


 その言葉に意味も心も無く、上辺だけだという事も、人を小馬鹿に見下しているということも。

 本当に、嫌になるほど解る、解ってしまう。



「それよりも、せっかく一対一で話をしようと言うのだ。近くで話さないか?」



「……そうだな」



 いつの間に近寄っていたんだろうか、引っ張られる感覚は無くなっていた。



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