28話 望んだ状況 臨まぬ状況




「で、どうするつもりよマジで」


 兵士達が全員引き揚げたの確認すると、徐にラミュが不貞腐れながら聞いてくる。


「は? 決まってるだろ。今から乗り込むんだよ」

「そんな、当たり前みたいに言わないでほしい」

「全くよね、なんかプランでもあるわけ?」

「コレを囮か楯にして突っ込めば良いんじゃね」


 両手と両足を縛った王子様に、僕が視線を送る。


「あの、それはちょっとやめてほしいかなぁ~って。ほら、自分が言えば君等には誰も手出しさせないって。ほ、ほんとにちゃんと言うと通りに動くからさ」


「止めなさい、国王にコイツに人質の価値は無いわ。逆に有り難がられるわよ」

「そ、そんなことはないよ! ねぇ、大将さん」


「すまんが、ラミュちゃんの言うったとおりなんだよ。ルーディさんや他の方々の御蔭で今まで無事だったんだぜ、ぼっちゃん」


「そ、そんなまさか……だ、だって、なぜ――」

「アンタ、このオッサンが何で此処に居んのかも知らないでしょう」


 大将が「よせっ」と言うものの、ラミュは構わずに続けて話す。


「王が暗殺しようと送り込んだヤツ等を、大将とソウ達が問答無用で皆殺しにしたから、反感を買った王とその御つきの連中に追い出されたのよ。ソウ達はイズの手回しの御蔭でなんとか町の警備に回された程度で済んだけどね」


「じゃあ、今まで必要以上にイズや町の兵士達が自分の周りにいたのは」


「そっ、つうか本来ならアンタは此処に来ちゃあいけないのよ。町の連中達が大将を匿ってこのスラムに要る事を隠してんだから、大将自身がどうしてもって言うから、皆が黙ってアンタの事を見て見ないフリしてるのよ」


「ずいぶんとまぁ、ラミュちゃんがこの国来て一カ月程度だっていうのに」


 肝心の大将はというと、良く調べたなぁ、なんて感心してしまっている様子だった。

 王子の方は、言葉なく下を向き落ち込んだ様子である。


「トレジャーハンターってのは、情報と信頼が無いと務まらないのよ。嘗めないでよね」


 この王子様もリエナと同等、いや、それ以上の激甘ちゃんかよ。


「なぁ、お前ら王に喧嘩売る気なんだろう。だ、だったら俺にも手伝わせてくれっ! 俺が一声かければ、三年間で集まったレジスタンスの連中も――」


「要らん、邪魔だし」


「そんな無下にしなくても良いんじゃ?」

「三年もたって、何も出来てない連中がいても邪魔だろうが」

「たった三人で何ができる! 頼むから手伝わせてくれ」


 そう懇願してくる隊長の言葉を思わず無視できず、手に持っていたグラスを机に叩きつけ。

 大将の襟首を掴んで立ち上がる。


「はぁ? 三人? 間違えるなっ! 僕一人でやるに決まってるだろう」

「おバカでしょうアンタ! そんなこと出来っこないでしょうが、アホなの? 死ぬわよ」

「いくら魔神器の力があるからって、無謀だと思う?」

「死なねぇし、こんな扱い慣れてないもんに頼るわけねぇじゃん」


 僕が胸を張って答えると、二人は呆れながら僕の顔をマジマジと見てくる。


「……なんでこの人は自信満々?」


「アタシに聞かないで。こういうおバカに真面目に付き合ってると、早死にするわよ」


 二人して同じように頭を抱え、同時にため息を漏らしている。


「あの、自分も……いえ、自分を王の所まで一緒に連れてってもらえませんか?」

「貴様はもう用済みだぞ、城じゃあ囮にもならんらしいしな」

「アンタね、もう少し言葉をオブラートに包んだらどう?」

「どう言おうが、こいつに言う言葉の意味は変わらん」


「邪魔なら捨て置いて構いません。ですが、自分自身で王と会って話さねばならないんです、納得できるように。相手の心を知るためにも、この国を担う者として」


 お願いします、と、

 僕の前に座り込んで土下座するように床にお凸を擦りつける。

 清々しい程にお人良しで、突き抜けた性格だな。

 なんて思って、少し笑ってしまう。


「連れてってくれるなら、城までのかくし通路の場所を教えるから。頼む!」


 僕は無言で鎌に手を掛けて、軽く振り下ろす。


 一瞬、周りも息をのんだようだが、別に殺すつもりはない。


 縛ったロープを切っただけだ。


 そのまま入口に何も言わずに、入口に向かって歩き出す。


「おい、何いつまでもへたばってんだ、置いてくぞ?」

「へ、あっ…… い、今行きます!」

「あ、ちょっと待ちなさいっ! アタシも行くっての」

「なんで? 別に来なくても――」


「別に、アンタやアイツの事が気になる訳じゃないわよ。いい、アタシは、アタシの目的があって城に要があんのよ。元々、そのためにこの国に来た訳だしね」


「あっそ。んで、お前さんもくんのかよ」


 いつの間にか僕の後ろにピッタリと、ついてくる気満々のリエナがいた。


「当たり前? 元々、私の村の問題……それに、キミを見張る役割もある」



「……俺も、俺は……」



 イスに座り込んで動かない大将に、一言だけ投げかけてやる。



「貴様は、やる事が違うんじゃないか?」



 そうして、僕等は大将の店を出て行く。



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