23話 望んだ状況 臨まぬ状況
「だぁ、はぁっ、はぁ~~。づかれた~」
ゴーレムに乗ったフィズのせいで(元は自分の責任だけど)、引き摺られないように出来るだけ走る道は、ほぼ森の中を突っ切る様にして進んだ。
荒野に出て走りやすくなるかと思ったら、すぐ目の前には高々と聳える外壁が見えた。
ゴーレムは吹っ飛ぶ様な感じで門に突撃していったのを、遠くからみたが、ぶつかった感じではなく、何かに吹き飛ばされた感じの砂塵の舞い方だった気がする。
「お~い、生きてるか~?」
「よ、酔う。は、早いし……怖いっ」
ラミュとリエナが後ろか、大きめな犬型のゴーレムに乗ってやってくる。
「また暴走したりしねぇだろうな」
僕の前で急ブレーキをかけて止まる。
「私、そんなドジじゃないっ! わっ?」
とか言いつつ、リエナがいきなり犬型ゴーレムの背中から転げ落ちてくる。
「よっと。ドジじゃないねぇ~、へぇ~そう」
バランスを崩して僕の方へと落ちてきたリエナを、両手でしっかりと受け止めた。
「これは……その、ふ、フリアーズさんが飛ばし過ぎて、ちょっと足元がふらついて――」
「アタシのせい?」
ラミュは軽く飛び降りて着地する。
「いえ、えっと……その~」
何も言えなくなったリエナは、おずおずと自身が作り出したゴーレムを土に還していく。
そして土いじりを始めてしまう。
「以外に、打たれ弱いな」
呆れながら僕が言った一言に、ラミュも同意とばかりに頷いていた。
「にしても、下町の方か。流石に正門からは入りたくないし……かといって、このまま大通りを突っ切りたくは無いわね」
「ん? なにか不味いのか」
「アンタは少し自分の立場ってものをね、自覚しなさい」
ラミュが僕のお凸をツンツンと突いてくる。
「相手が欲しがってるモノは、貴方が持ってる。つまり、狙われてるのは魔族の人と貴方」
いじけていたリエナが、すくっと立ち上がって門の方と僕を指差してくる。
「それが? 向かってきたら蹴散らせばいいだけだろ」
「アンタ忘れたわけ? 下手な事したらリエナ達の村が大変な事になんのよ」
「(こくこくこくこく)そうだっ! それぐらい覚えてろ~」
ラミュの言葉に強く首を縦に振って小声で野次を飛ばしてくる。
「大きな声で言ったらどうだ?」
「ひぅっ!」
睨みつける様に見ると、すぐにラミュの後ろに引っ込んでしまう。
「リエナ……アナタも隠れるくらいなやらないの」
「…………なんだ? 村に居た時と偉く反応が違うというか、弱腰だな」
「此処に来るまでにアンタが元は男だっていう話をしたのよ」
「僕は初めからそう言ってるんだが……信じなかったのは、そいつだぞ」
「アタシも初めは信じなかったわよ、けどナエお婆さんがやってた水晶を使った魔術の話しをしたら、この子も同じ事が出来るらしくってね」
なるほど、それで僕に追いつく前にちょっと占ってみたら、本当だったと分かった訳か。
「それにリエナって山から下りた事が無いらしいし、仕方が無いんじゃない」
ラミュは半笑いで、視線を後ろにいる見る。
「んなんでよく付いてくる気になったな」
「私の使命だから当然? 貴方に託された魔神器は正しい事に使われるべきものだもん」
「そんなくだらない使命なんか忘れて、とっとと帰ったらどうだ?」
「貴方の言葉は、信じる気になれない?」
「別に逃げやしねぇし、つうかこの状態じゃあ逃げようにも……」
フィズと一定の距離から離れられない以上は、僕も向かわなければならない。
それに、フィズが無償でカアラ国に殴り込み行ったというのは、あり得ない。
「だぁ、面倒だなもう」
僕に与えたくない情報が此処にあると婆さんから聞いたのか、それとも……あまり考えたくはないが、もっと別の何かが此処に有るのかもしれない。
しかも、きっと僕に関連するようなモノの可能性が高い。
カアラ国に来るまでの道のりで、ヤツは異常な程に顔が緩みまくっていた。
「ちょっと楓、早くこっちに来なさいよ。見張り台の連中に見つかるでしょう」
リエナとラミュは門の方向ではなく、左側の林へと歩み始めていた。
ちなみに右側に広がっているのはだだっ広い荒野が見えるだけ。
「そっちになんかあんのか?」
「なきゃ行かないわよ」
まぁ、そりゃそうだ。
僕自身は真正面から行きたいんだけど、仕方がない。
茂みの奥へと消えて行ってしまうラミュを慌てて追う事にした。
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