22話 望んだ状況 臨まぬ状況




「あっ、しまった」

「容赦のない一撃だったわね。自業自得だし、同情はしないけどね」


「後頭部への見事な踵落とし。生きてるの?」

「だ、大丈夫だろう。コイツは石頭だから」


「でも、コレ気絶してるじゃないっ」

「いつもの事だ、どうせすぐに目を覚ます。……多分」


「アンタねぇ~、少しは状況を考えて行動しなさいよねっ」

「とりあえず魔族はタフっと、メモメモ(気絶はするもよう)」

「アナタもっ、そんなメモしてないでこのゴーレムなんとかしなさいよ!」

「そんな事、出来たらとうにやってる?」


「じゃあどうすんのよ、この暴走したゴーレムはっ!」


「暴走してる時点でどうにもできない。フリーズさんはゴーレムについて、多分、なにも分かってないようだから一から説明必要? かな。いい、ゴーレムを作り出す過程までは霊術だけどそれからの動作・命令・能力・の類はゴーレム本体に刻む魔法陣とコアとを反し構成した体へと流す仕組みになってるのがおもで、このゴーレムも例外なくそうなってるけど、動いている動力源はゴーレムを構成・構築した大元の元素のマナを使用するこのゴーレムの場合は土、つまり大地からのマナを吸収して動いてる訳だから――」


「だぁ~、ながい、長いわよ! それと、息のつく間をもって説明しなさいよね」


「これでも細かい部分や難しい説明の個所は省いて話したのに……」

「楓を見なさいよ、頭ん中いっぱいになってオーバーヒート寸前じゃない」

「んな、ことは、ない」


「頭をフラフラさせながら言っても、説得力ないってのよ」


「でも、暴走した原因が分からない事には対処のしようもないよ?」


「じゃあ早く調べなさいよ!」


「それが……何かよく解らない力が邪魔してるみたいで、杖が機能しない」

「暴走してる時点で貴様には止められんだろう」


「むぅ、そうだけど」

「アンタならどうにか出来るわけ?」

「ふん、あたりまえだ。と言いたいところなんだが、それは本来の体なら、だがな」

「『本来の体』? なんのこと?」


「結局なにも出来ないんじゃない」

「文句ならコイツに言え」


「いま必要なのよ! い・ま。それと、気絶してるんだから蹴るのは止めてあげなさいよ」


「けっ、じゃあな」


「あ、一足先に逃げるな!」


「ま、まって。というか私の質問に答えてない」


 ――ドンッ ドシッ ドドッドド……

「よっ、とと――あっ、ひきゃぅ!」


「可愛らしく尻もち付いたわね……いっつぅ~」


「さ、さずがに……馬とほぼ同じスピードから飛び降りるのは、危険、だと思う」

「無事、飛び降りれたのは良いとして。なぁ、アレって何処行くんだ?」

「無事じゃないでしょうに……可愛く可憐なアタシの体は傷だらけよ」


「……多分だけど、カアラ国目指して一直線に走っていくかも?」


「あ、ほんと。坂を下り終わったと同時に方向変えていったわね」

「たく、失敗するようなもん作るなよ」


「普段は暴走しないもん」


「……どうだか」

「むっ、信じてない?」


「ねぇちょっと、いいかな」

「あ? なにやってんださっさと――」

「フィズの姿が見えないんだけど」


「は……あぁ、あああぁぁ~!!」


「あの人ならゴーレムに引っかかってて、そのまま……おいてきた?」


「一緒に連れてこいよ!」


「気絶させたのは貴女でしょう? 忘れてた人が悪いと思う」

「ってことは……まさ、かっ!」


「そいうえば、アンタ達ってある程度の距離からは離れられないだっけ」

「うぐ、お、おぉ! わわぁ~~~! くっそ~~引っ張らっ――きゃああああああああぁぁ」


「なんて言うか、あわれね――」


「……ふふ♪」

「アナタ……まさかとは思うけど」

「ふふふ、計画通り?」


「まぁ、確かに楓に関しちゃあ、勝手にどっか行くか逃げ出すかもしれなかったけど」

「…………楓ちゃんは多分、逃げ出しはしない?」


「は? なんでそう思うわけ?」


「あの子は強いから……私なんて子ども同然なくらい。御婆ちゃんも言ってた、「楓が宿したオーブはワシの力よりも遥かに超えていた」って、でも――」


「ちょっと、そこまで言っといて止めないでよ」


「オーブは精神エネルギーの集合体……それが強ければ強いほど、その者の心や強い意志があるって事なんだけど。楓が遺跡で放ったオーブはね、濃い密度結晶体の力で、すさまじいほど強すぎるのに、不安定で未知な要素が多すぎるの?」


「あ~、悪いんだけど。もうちょっとアタシに分かりやすく、言ってくれない」


「……つまり、精神エネルギーは、使用者の思いや、力、心が形や色となってそのまま現れる、楓のオーブ、見た事も無いほど深く全てを飲み込む様な黒く悪い部分がハッキリ見えるのに、思わず魅了されるほど綺麗な色のオーブを、その黒が更に可憐に輝かせるの」


「簡単に訳すと、良い奴なのか最悪な奴なのか、全然分かんないってこと?」


「極端に言えばそうかも?」



「あ、そう……アンタと居ると頭が変になりそう」



     ◆◇◆◇



「――い、きみ。おい、大丈夫か?」


 なにかに体を強く揺すられる。


 世界がグルグルと回るような感覚で、いま頭の上でヒヨコやら星が飛びまわっている。

 おぼろげながらも、ゆっくりと重い感じのする瞼を開いていく。


「お、おぉう」


 視界が開け、青空と雲が瞳に映るも、やはりそれらは若干回って見えていた。


「よう無事だったな~」

「ルーディ―様の御蔭で、おめぇさんその程度ですんどるんだぞ」

「なにがあったか知らないが、ちゃんとお礼は言っとけよ坊主」


 見知らぬ老人やら、体格の良いオッサンが俺の顔を覗き込んできて何やら言ってくる。


「だぁ~、ここ、どこだ?」


「ここはカアラだ。ゴーレムに乗って門に突撃してくる輩には、始めて会ったよ」


 低く声なのに何処か色っぽい感じのする奴が、門の方から声を掛けてきた。


「そりゃどうも、あぁ~ってぇ~」


 身体の節々が痛むけど、少しほっとけば痛みも消えていくだろう。

 腕や肩を重点的に動かしてから飛び起きるようにして立ち上がった。


「門番からの連絡が無かったらこの門もそなたも吹っ飛んでいただろうな」

「にしても、もうちょっと助け方があったんでねぇの。体中が痛いぞ」


 俺を助けてくれた奴らしき低い声の主の方を向くと、そこに立っていたのは女だった。


「なんだ? 自分の顔に何かついているのか?」


「声だけ聞くと男と間違えそうになるな、お前」

「ぬっ……人の気にしている事をズバッと言ってくれるものだな」


 俺がそうやってため口で彼女と話していると、急に後ろから衣服を引っ張られる。


「お、おめぇさんなに堂々とため口ではなしてんだ」

「あの人が誰か知らないのか?」

「あ? さっきこの国しついたばっかだぞ、知るわけ無いだろう」


 腕を組んで堂々と言ってやる。

 そんな俺の態度を呆れた様子で見るものや、バカにしている様な者もいた。


「で、お前。何者なんだ? ここいらの連中からは妙に慕われてるじゃあないか」


 見た感じだと腕っ節も強そうだし、女性としてのスタイルも中々に素晴らしい。無駄な肉は無く、そうとう鍛えているのかウエストやヒップのラインなどは引き締まっている。かといって、無駄にゴツイ体付きなどではない。


「おっと、そうだったな。私はこの国の王子であるグーレ・カアラルド殿に仕える、直属特殊部隊の筆頭を務めさせていただいているルーディ―・イズルギスという」


 自己紹介が終わると同時に、その証拠である紋章が記された、銃の術器を見せる。


「で、そなたは何者だ?」


 構えた銃をそのままに銃口を俺へと向けて、どすの聞いた声で言う。


「フィズという。コイツを偶然に手に入れたんだがな、俺が行かなきゃその遺跡の杜人って連中を皆殺しにするとかなんとか、この国の奴からお呼び出しされたもんでね」


 俺は遺跡で手に入れた、刀身の細長い剣を見せてやる。


「そう、か……そなたが」


 どこか曇った表情で俺に向けていた拳銃を下してくれる。


「あん? なんだ、その面は?」

 この武具を見せたら目の色を変えるか、嬉しそうにほくそ笑むと思っていたのだけど。


「……っ、すまない。こっちだ、城まで案内しよう」


 すれ違いざまに小さく誤り、いま居る大通りから真正面に見える城へ歩きだす。


「お前らは、この魔神具がほしかったんじゃあないのか?」


 ルーディ―はこちらを振り向くことなく、俺の質問を淡々と反してくれる。


「私は……いや、この国が欲しがっているのは確かだ」

「まぁ、伝説級の武具をや力をなるモノを欲しがるのはどこも一緒だわな」

「そうだ、この国も強く大きくなる為には必要だと、国王の方針だ」

「バカ高い石の塀もあるし、比較的に安全なんじゃあないのか?」

「……この国は、敵が多いのだ」

「ほぉほぉ~、ここ最近発展した感じな国なんかね?」

「なぜ、そう思う」


 外壁側の近くは和気藹々としてはいたが、建物なんかは少し古く、大通りから外れた小道の奥の方には手付かずな感じの道が多くみられた。


 ちらっとだけど、スラムらしき場所も見えた。

 そして、内側にも建てられている頑丈そうな区切りの壁が見えてくる。


「遠くの山から見たんだ、どうも城を中心に後ろの半分は木造の家が多いんだが、どうも円の内側から城の前の方は、やたらとご立派な建物が建っていた記憶があるんよね」


 あの城、前側から見たら更にご立派な建物なんだろうな。


「門番、私だ!」

「えっ? あ、はっ、すぐにお開けいたします」

「すまないな、苦労を掛ける」

「いえ、……あ、あれ? 王子とご一緒では?」

「あぁ、下街で撒かれてしまったよ」

「そうですか、それでこちらのお方は?」


「客人だ、正門ではなく裏門から入ってしまったらしくてな。城までの案内は私がする、そこで悪いのだが、王子を連れ戻すよう兵士達に伝達をお願いしても良いだろうか?」


「はっ、いつもの事です。下町の事は我々にお任せ下さい」


 そう告げ、物々しい門を潜りぬけると、その先には無駄に広がった庭が見える。手入れの行き届いている花壇やら綺麗な小川が流れている。


「この辺まで山の水が流れてんのか?」


「あれは、遺跡から湧き出している水だ。山から流れてくる水は下町の人達が大切に使っている。この水は城の者達しか使ってはいけなそうだ」


「はぁ~すごいな、遺跡ってのはそういう活用も出来のかよ」

「あぁ、遺跡の御蔭で此処まで繁栄したと言っても良いだろう」

「未だに機能が生きているのだから、昔の者達が作ったモノはやはり凄いのだろう」

「どうだかな。いくらかに凄いモノだろうと使い手がクズならゴミだぜ」


 楓の使っている大鎌が頭に浮かぶ。


 武器は先代が作り、俺もなんとか使えないかと色々と手を色々と加えてみたのだが、一向に使えない代物だった。


 ……効力自体は凄いのに、ゴミ同然で宝物庫に保管されてたものだ。


 前を歩いていたルーディーが、急に歩みを止め振り返って、

「そなたは、その魔神器を使って何をしようとは思わないのか?」

 俺の腰にあるモノを見ながら言う。


「このひょろっとした剣でか? あはは、使ってみりゃあ分かるけど、んなご大層な力は無いって。俺にとってコイツは、この世で一番欲しい者を繋ぎとめる程度の代物だよ」


 まさか一定の距離から離れられなくなるという効果付き。

 これはもう神が俺の為に用意してくれたとしか思えない。


「ふふ、ぐふふ」

「お、おい?」

「はっ、いや。なんでもない」


 ……俺が此処まで入れているってことは、楓もカアラ国内に居るのかな?


「そ、そうか」


 だが実際、この魔神器。


 物は軽く切れるくせに、人は切れなかった。無理に力任せに切ろうとすれば簡単に折れてしまいそうなほどに、下手な使い方が出来ない武器なのだ。


「普通の剣とか銃を使ってる方が役に立ちそうだぜ」


「使い方が分かっていないだけじゃ、ないのか?」


「否定はしない。確かに普通の刀剣じゃあ無い変な違和感があるには有るんだけど、俺にはコイツをどう使うかってのはイマイチ分からん」


 鞘から刀身を少しだけ抜いてみても、やはり見た目は普通に見える。

 ルーディーも俺の持つ刀剣を見ながら、ふと何かを思い出したかのように口を開く。


「そういえば、あの遺跡は二つの魔神器が封印されていると聞いたのだが、もう一つは?」

「おう、あるぞ。まぁ、俺は持ってないけどな。それで俺も聞きたい事があったんだ」

「なんだ?」

「門の所に俺以外の奴って居たか?」


 俺の問いに、ルーディーは顎に手を当てながら、思い出そうとしてくれる。


「残念だが分からない。あの裏門の通りは村人達の出入りが激しいからな……私も下町の者達と仲良くなったのは最近で、全てを把握している訳じゃないんだ」


「騒動に紛れてどっかに行っちまったかな」

「何か特徴は無いのかい?」

「あ~、デカイ鎌を持った小柄な少女だ」

「……そんな子は見ていないな、その子は魔族か何かか?」


「ん? いや、普通の女の子だぞ。ちょっと生意気なところはあって、かなり恥ずかしがり屋でなぁ、容姿はお人形さんの様に可愛らしい子だ。それで――」


 楓の良さに付いて語ろうとする前に、話を切られてしまった。


「いや、もういい。やはり私は見ていない」


 しかしそうなると、楓に出し抜かれる可能性が出てくる。なんとかして、俺の目論見に気付かれる前に物を手に入れ、なおかつ、この城にある魔法や魔術の資料を処分せねば。


 一番の目的は、楓に下手な情報を渡さない事が最重要事項だな。


「くれぐれも、変な事をしないように」

「善処はするさ」




 城の大きな扉が開かれ、中へと案内してくれる。



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