21話 望んだ状況 臨まぬ状況
「道案内って、必要だな~。適当に進む奴を追うと、必ずと言っていい程に五回は日が昇るのを見るからな。町や村を見つけるまでにお日様が昇るのを、十回くらい数えた事が何回あったことか……基本は野宿だもの。俺の為にも、楓は自身のお肌――」
先頭をラミュルが歩き、その後ろにフィズがブラブラとしながら付いて歩く。そして、少し後方では楓とリエナが並んで歩いていた。
リエナは自分で作り出したロックゴーレムに担がれているが、疲れきっている感じが顔を見なくても、全身からにじみ出ているようだった。
「コレをコウシテ……こんな感じで……撃つっと」
楓はブツブツ呟きながら手の平サイズ紙に何かを掻き終えると、その紙の中心に銃口を突き付けながらフィズの後頭部に狙いを定め、躊躇いなくリボルバーの引き金を引く。
楓の目では見えていないが、リエナの瞳はしっかりと銃口から弾丸ではなくオーブの小さい塊が飛び出したている事が確認できている。
オーブが紙に描かれた魔術印を突き抜け、紙ごとフィズの後頭部を目掛けて飛んでいく。
フィズに当たる前に、飛び出たオーブは紙を巻き込みながら一瞬で拳サイズくらいの石へと変化したあげく、高速で飛び出していった弾の速さのまま進んでいく。
「――リエナや下部の様に、もうちょっとおんぐぉっ!?」
ヘラヘラと喋っていたフィズの後頭部に見事に命中する。
「誰が下部よ、だ・れ・がっ。楓ちゃん、ナイス」
「いでぇ~~!」
先頭を歩いていたラミュルが振り返り、後頭部を抑えて前のめりに倒れ込んだフィズの頭を殴り飛ばす。それも楓が狙って撃った場所と同じ所を狙い澄まして。
「……もう一回試すか?」
少しむくれ気味になった楓は手に持ったリボルバーを弄繰り回し、ラミュルを半眼で見据えながら低い声で言う。
「ちょっ! アタシ!? コレみたいに頑丈じゃないのよ、止めてよ」
ギュッと握りしめた一発の弾丸を込め始めだした。
「ちゃん付けで呼んだのは誤るから」
「呼んだの【は】? 誤るのか……よし、実験台が一匹増えたな」
弾を込め終えたリボルバーを見て、本気っぽい楓の姿に慌てたラミュルは、彼女の足元で転がっていたフィズを体を起して盾にしだした。
「あの魔族はどうでも良いけど、その銃を人に向けるのは感心しない?」
そう言って楓の銃を横からリエナのゴーレムが優しく払い、間に割って入る。
「貴様はさっさと帰れよ。つうか今すぐに村に戻りやがれ、この足手まとい」
「馬で行けば早かったのに……なんで歩いて山一つ越えるの? バカなの?」
「貴様が体力なさすぎなんだよ。なんで山に住んでる民が山一つ越える前に息切れてぶっ倒れんだよ。色々とおめぇの鍛え方は可笑しいぞ」
「私は頭を使うのが専門です。御婆ちゃんみたいなのが異例すぎな巫女なだけ?」
楓とリエナは御凸がぶつかりそうなほど顔を近づけ、お互いに良い争いを始めてしまう。
「いつつぅ~、……あれじゃね。昔はよく修行はしていたけど、最近じゃあ基本的に引き籠ってたから体力がないんじゃあないか?」
フィズは後頭部に手を当てながらそう言う。
リエナは少し気まずそうな表情をして、皆から視線を逸らせていく。
「図星みたいね」
ラミュルは呆れ顔をしながら、さっさと先に進み始めてしまう。
「……アホくさ」
楓は鼻で笑い、気にも留めない様子でラミュルに付いていく。
「ほ、本を読んでる方が楽しいのっ!」
リエナは必死に弁解しようと楓とラミュルを追い始める。
「いや~、俺も昔に似た経験があるから分かるぞ」
いつの間にか起き上がったフィズがリエナの肩に手を置こうとする。
しかし、リエナはサッと避けて冷たい視線で一言だけ、
「別に、嬉しくない」
と、一括されてしまう。
「嫌われてるね~。……女の子って怖いよ、助けて楓ちゃ~ん」
フィズは楓の元まで走って、蛙のように跳ね跳びながら抱きつこうと目論むも、
「ほう、ならもっと怖くしてやるよ」
カチャッ――とリボルバーの銃口をフィズの顎に突き立てる。
「あ、あれぇ~。女の子扱いされたくないんじゃあ」
「貴様が僕の事を男として普通に相談したいのなら、別に問題はないんだが、男に抱きつく趣味でもあるのかな?」
「っていうか、随分と素早く抜ける様になったじゃないか」
楓は無言で付きつけた銃口を更に強く押し込むようにして、フィズの顎に食い込ませる。
「そうだな……え~、でも男の子の方でも楓なら十分にいけ――はぐぅっ!」
銃は囮で、楓は左手でフィズの腹の上方中央にある窪んだ部位に。
簡単にいえば鳩尾に拳を容赦ない勢いで打ち込んだ。
「みぞにモロっ、いれやがって……くはっ」
「あっ、しまった。つい……」
「――えいっ、えい! ダメ? 完璧に意識が飛んでるっぽいかも?」
リエナがそこらへんに落ちていた棒きれで、突いてみたりくすぐってみるが反応は無い。
「なにが『あ、しまった。つい』よっ! 完璧にのびちゃってるじゃない、どうするのよ。アンタ、責任とってコイツを運びなさいよ」
「面倒な……はぁ、仕方ないか」
大鎌の柄に洗濯物でも干すようにフィズをぶら下げて、そのまま担ぎあげて歩き始める。
「コラッ!? アンタは先頭を歩くんじゃない、また変な道に迷い込むでしょう」
「うるさい奴だな、次は迷わん」
「そのセリフ……もう五回目?」
「リエナとアタシが居なかったら、確実に道に迷ってたのよ。これ以上の遅れはアタシが許さないんだからね」
「僕には関係ないだろう。目的地が同じになったから動向しているに過ぎないことを忘れるなよ。貴様らの目的と僕の目的は根本的に違うだろ」
==此処にそろっている四人の目的は、其々がバラバラの思い。
「いいか、絶対に邪魔するなよ」
楓の目的は四分の一程度が皆に乗せられて喧嘩を買ってしまった事と、自分の体を元に戻す方法を探すことの方が大前提だったりする。
昨晩に聞いたナエの話から、確かに元に戻る方法が分かるかも知れない可能性は高いと思い至ったのだが、未だに半信半疑で八つ当たりにケンカを買った感じになっている。
「村の命運が掛ってるんです、貴方みたいな人に任せてはおけない……」
「けっ、勝手にしろよ」
リエナは自分の村に被害が及ばないように、何とかしようと勝手に楓に動向してきた。
少し訂正して加えると、ナエ婆さんから半場無理やりにでも楓と共に行けと強制されていた、ナエの言いつけで更生するためという大義名分を掲げている。
次にラミュル――もとい、下僕は。
「ちょっと楓、アタシの誤解が晴れるまで、絶対に余計なことしないでよ」
村を直接に責めてきたベクマが率いる部隊の裏工作のせいで、カアラ国側を裏切ってリエナ達村に手を貸したとして、報告されてしまい、今では裏切り者扱いされている状態を何とかしようと、俺達を利用しようと考えている。
そして、俺自身は――、
――ぐふっ、ぐふふ。これさえ手に入れられれば。楓に掛けた魔法が完璧なモノになる。
しかし、いったいどうやって楓を出し抜いてカアラ城に忍び込むか、それが問題だ。
ナエ婆とのやり取りを怪しんでいたし、確実に俺の行動には注意しているはず。
何とかして他の奴らの意思を利用して、俺の優位にことを進めたい所だな。
「ん~、どうしたものか」
「……起きているなら自分で歩け」
「あでっ、乱暴だな~」
吊るされていた支えを急に無くされて、地べたに張り付くカエルのように落っこちた。
俺の言葉など無視して、さっさと進んでいってしまう。
「あ、勝手に先に進まない」
「ちっ。どいつもこいつも…… 早くしろってんだ」
「だから、君は勝手に行っちゃダメな人なの、分かってる?」
「……へいへい」
「はい、ストップ?」
「だぁ~、襟首を掴むんじゃねぇ!」
あぁ、俺よりも仲よさそうにしている。リエナ、うらやましいなぁ~、しかもあんな間近まで近づいてやがるよ。ぬぉ~俺なら即拳が飛んでくるってのに。
「おい下僕、まだつかないのか?」
「もうそろそろ見えてくるわよ。それよりもアンタね、いい加減にアタシの名前とか覚えない? ラミュル・フリアーズって名前があんのよ」
「【K(キッド)】が抜けてる?」
俺が言う前にゴーレムの肩に乗っているリエナが指摘した。
「細かい事は良いのよ。アタシはその部分は要らないのよ」
「よくはないと思う? せっかくの由緒ある血筋の証なのに」
「うっさいわね。アタシが良いって言ってんだらい・い・の! オッケー?」
下僕はリエナの所まで軽く飛び上がって、お凸に人差し指を宛がいながら迫って言う。
「はいっ」
半場脅しのように迫られて、強制的に賛同させられていた。
「っと、見えてきたわね」
ラミュが坂を登りきる少し前に南西を指差しながら、そう告げてきた。
ゴーレムに乗った状態からならよく見えるらしい。
「…………見えん」
逸早く坂を登りきっていた楓が呟くように言いながら、始めはピョンピョンとウサギの様に跳ねあがっても、よく見えない様子だった。
――あぁ~、実に可愛い
一瞬、ムッとした顔でこちらに視線を向け、慌てて緩んでしまっている顔を取り繕う。
何とか誤魔化せた様で、次に楓はリエナとラミュ達の方をじーっと眺め始めた。
「あの、フリアーズさん……降りてほしい……」
「良いじゃない、ケチケチしない。それとラミュって呼び捨てで構わないってば」
ゴーレムが近くまで来ると、楓は高く飛び上がってゴーレムの頭上に乗っかった。
「きゃっ! 急に乗らないでっ!」
「わわぁっと、危ないでしょうが!」
ゴーレムの頭上に楓が乗った時に、少しだけゴーレムがバランスを崩したが、
「……ふむ。確かによく見える」
楓は平然とゴーレムの頭上に立っていた。
「アンタ、人の話聞きなさいよね」
「それはフリアーズさんも同じ?」
――なるほど、木々が邪魔で見づらいな。
楓の身長じゃあ葉に覆われて視界は完璧に遮られて見えない訳だ。
「俺も乗せてくれよ~」
ラミュ達が乗っている反対側のゴーレムの肩によじ登っていく。
肩の部分まで登ると、確かに視界が開けてよく見えるようになった。
大きく綺麗な円形状の外壁の中に街並みが見え、街を見下ろすかの様な高い位置に巨大な城がそびえ立っている。そして城を囲うよに水堀が城と街との間にある。
観察していたら、突然にゴーレムがグラつき始めた。
「み、みんな降りて……定員オーバーっ! きゃぁ!」
今まで真っすぐに歩いていたゴーレムが、左によれたり右に倒れそうになったりする。
「ちょっと、アンタさっさと降りなさいよ、ねっ」
「降りたいんだけどなっとと。これ、段々と早くなってないか?」
歩いていたはずのゴーレムはいつの間にか、坂を転がりそうな勢いで走り出している。
「わ、わわぁっくぅ――」
頭の上に立っていた楓が一番大変そうにバランスを保っている。
――……あ、この位置。結構、良い位置だっ! ぐぼぁっ――
チラチラ見えそうで見えない楓の足を眺めていたら、それに気付いた楓が顔面に上手く足を乗せてきた、しかも丁度よく目を覆うようにして。
「ちょっと~、リエナ、早く止めてよ」
「え、えと……あ、あれ?」
「どうした?」
「おい、早くしてくれ! 前が見えない、いで、いででぇ。楓、お、落ちる、落ちるから」
「貴様なぞ落ちてしまえ」
ゴーレムが揺れているせいなのか、楓の行為なのか軽い感じで何度も蹴りをくらう。
「…………う~ん? あの、その……」
困ったような声で乾いた笑い声をあげる。
「リエナ、アンタまさか」
「止まらない、のか?」
「制御、出来なくなっちゃった?」
誤魔化すように、ちょっと茶目っ気たっぷりの声でそう告げた。
「なにそれは不味い。すぐにこの足をどけてチラリとその奥を、じゃない。俺が全員を担いで飛び降りようではないか、楓ちゃんは俺の背中にその豊満な――むぶぇふっ!」
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