13話 知る奴と知らないヤツ





「どういうこった? なにか――」


 フィズがナエに疑問を投げかけている途中だったが、その声をさえぎる程に大きな音が入口付近から、けたたましい騒音によってかき消される。


「お~ほほっほ。先客が居たとはねぇ。おっと、動くんじゃないよ、お前達」


 無駄にデカイ態度と、声の女性が入口付近に立っていた。


「おやおや? 1、2、3――5人、3人増えてないかい。報告と違うよ、カゼーヌ」

「あの女とお年寄りは、格好から見てこの里の杜人でしょう」

「あら? 全員追い払ったのではなくって?」

「私(わたくし)達を散々邪魔してくれた杜人のリーダーでしょう、覚えてないのかい?」

「そう言われてみれば、そうねぇ。見覚えがなくもないわね」


 カゼーヌはラミュとフィズを見付けると、渋面で睨む。


「なんだ、アイツら?」


 この中で唯一、武装した相手の存在を良く知らない楓は、祭壇の上で座り込んで部屋の真ん中にいる全員に聞く。


「……里を襲ってきた者達ですっ」

「そんでもって、いまアンタ達が持っている武器を狙ってる奴らよ」


 やっかいなのが来ちゃった、とぼつき。

 ラミュは頭を左の人差し指で少し掻きながら、少し前に出る。


「あら、遅かったじゃないの」

「貴女の様に急ぎ過ぎては、足元をすくわれかねないでしょう。こんなふうにね」


 高飛車な女性は、派手な扇を取り出して口元を押さえて高笑いしだした。

 すると後ろに居た兵士達が前へ出てきて、銃を一斉にフィズ達に向けて構える。

 その時、リエナがハッとした様子でラミュの横に並ぶ。


「カングっ!」


 少し後ろの方に、鎧がボロボロになっている体格の良い男二人に、抱えられるようにして、楓の持っていた大鎌で切先を首に突き付けられた青年の姿があった。


「あ~ら、お知り合い?」

 嫌みったらしく高飛車な女性が聞いてくる。


「ゼーヌが来てるから、もしかしたらって思ったけど。やっぱりアンタもグルだったわけね。皇帝の直属護衛軍、ベクマ総隊長さん」


「白々しいねぇ、王室に呼ばれた時から我等の事を疑って掛っていたくせに」


「しょうがないでしょう、アンタんとこの国って良い噂とか聞かないもんでねぇ。昔は良い噂とかを良く耳にしてたんですけどね」


「あらあら、下世話な者達のお話を信じるなんて。流石は地の底に落ちた血族の生き残りよねぇ。無駄な夢を追う職業をしているだけあるわぁ」


「あ、あ~ら、よくそんな事がいえるわね。無能だって評判が高いアンタがね」


 互いに言葉を交わすにつれて、低く不気味な笑いが部屋中に響き渡る。


「凄いくだらない言い争いが始まったぞ。か、楓。これ、どうすればいいんだ」

「……無視しろ、巻き込まれたら厄介だ」

「それが得策じゃ」


 ナエの言葉に同意するように、リエナが首をコックンと縦に振る。

 楓とフィズは互いに視線を合わせる。


(女特有な感じの戦いかな?)

(僕に聞くな)

(いまお前、女の子じゃん)

(心まで女になったわけじゃない。というか心は永遠に男だ、バカ野郎)

(え~、少しは理解できるんじゃないの?)

(三枚に下ろすぞ)

(それより、ワシらの仲間を助ける方法を考えてくれんかのぉ)

(楓と二人っきりの遣り取りをじゃまするんじゃないよ、婆さん)

(……むっ(えいっ!))

(痛いっ! 何すんだよ嬢ちゃん)

(……ベッ(ぷいっ))

(もっとやってやれ)

(べ~、命令しないで)


 そんな楓達とリエナ達が密かな遣り取りをしている最中でも、ラミュはベクマとの口論をいまだに続けていた。

しかも、会話のレベルが段々と幼い感じの貶しあいになっていっている。


「いつまで続けてんだい、全くっ!」

「お主もじゃ」


 カゼーヌとナエが互いに、言い争っているラミュ達の頭を叩く。


「そうだったわね、ありがとうゼーヌ。あんな人と喋っていたら、我も低俗な者達の仲間入りをしてしまう所でした」


「お婆ちゃん、強く叩きすぎよ」


 手で軽く小突かれたカゼーヌとは違い。

 身長差の分もあってか、杖で殴られた頭へのダメージが以外に大きかった。


「さぁ~て、コレの命が惜しければ【魔神器】を寄こしなさい。先にこの祭壇の間に居たのだから、手に入れているのでしょう」


 祭壇の上で胡坐をかいて座っている楓とフィズを、女性陣が交互に見やる。


「どうやら魔神器を手にした者は貴方達の様ね。さぁ、寄こしなさい」


 ベクマが右手をフィズや楓に伸ばして、指先で空気を撫でる様な仕草をする。

 しかし、楓もフィズも全く動こうとはしなかった。


「早く寄こせと言っているんだよ、この愚図共」


 カゼーヌが怒鳴り散らすが、困ったような表情で二人はリエナ達を見渡す。


「さっさと渡しなさ……あ~、そっか」


 ラミュは自分がそこまで発言して、ようやく気付く。

 リエナはすぐにでも同じ里に住む仲間を助けてくれと言うだろうが、それが今は簡単に出来る状況下にない。

 それを理解しているからこそリエナやナエは、歯痒い思いで楓達を見ている事しか出来ないでいる状態なのだ。

 魔神器を相手に渡せる解決策があるならナエが、何かしら教えてくれているはずなのだが、彼女は黙って視線を下に落とすだけだった。


「己等全員、武器を捨てなさい。さもないと手元が狂って刺さっちゃうかもねぇ」


 リエナとナエはすぐに、ベクマの指示に従って部屋の中央付近に杖を置く。


「貴女もだよっ」

「わかってるわよ」


 ラミュは渋々といった感じで腰のベルトを外していく。

 武器を地面に置き終わると、三人は祭壇の方へと下がる。


「次はお前たちだ。さっさと得物を寄こしなっ!」


 今までずっと黙って祭壇に座ったままだった楓が、片手で身軽に体を浮かして体勢を整えて、祭壇からヒョイっと降りる。


「良い子じゃないか、チビのお嬢ちゃん」


 ベクマにそう言われて、前へ進もうとしていた楓の動きが一瞬で止まる。

 実際に立ってならんでしまうと、露骨に身長差が分かってしまう。

 体付きは女性と主張していても、身長で見てしまうと楓は子供にしか見えない。

 ベクマの反応は別に変ではない。

 それは此処に居る全員に言えるし、フィズも、楓自身でさえそれは分かっている。

 この場で楓が女の子に変えられる前の姿を知っている者は、たった一人。

 楓自身を覗けば、フィズしか居ないのだから。


 しかし、

 それでも、だ。

 ベクマの言い方は、あからさまに不味かった。


「あ~あぁ~、知らないぞ。どうなっても」


 その事を一番に理解しているであろうフィズは、額から頬を流れる冷や汗を拭う。


「……んだと、今、なんつった?」




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