8話 まきこむヤツ、巻き込まれる奴




 掻い摘んで、此処まで辿りついた経緯(楓の事は言わず)を話し終えると少し考え込む。


「ふ~ん、なるほどね」

 こちらの話を全部は信じていないような感じで頷きながら、ニッコリと微笑み、

「じゃあ、こっからが本題よ」

 彼女はさっきと同じ様にして、真正面から銃を構える。


「アタシと組まない?」

「おい、どう考えても提案って感じの聞き方じゃないだろうが、銃を降ろせって」

「あら、何か勘違いしてない?」


 フフッと不気味に微笑みながら、なおも銃を降ろそうとはしてくれない。


「勘違いだと? 何が勘違いだという」

「アタシと、アンタの立場よ」

「立場、ねぇ~。どうも話が見えないんだが?」

「まぁ、神門から来たアンタが知らないのは無理ないんだけど。今、ここにはカアラ国っていう帝都の連中が来ててね、その国の御偉いさん方が【魔神器】を欲しがっているのよ」


 そこから先は大体の想像は簡単に想像出来た。

 いまだに大地の半分が荒れた荒野だが、発展している都市や国が点々と存在している。その国々がこの地全部を手に入れようと躍起になっているのだろう。その辺は俺が居た様な、魔族が住まう大地と同じだ。

魔族は己の持つ魔力の強さによって、一生が決まると言っても良い。


 早い話、より強い力を持った国が周りを吸収しながら大きくなっていく。


 その分かり易い{力}の代表が、ここにある【魔神器】に当る訳だ。

 昔よりも魔術の研究が進んだ今なら、確かに魔神器を手に入れれば大きな力になるだろう。【魔神器】というモノが噂通り、“魔法と同等の力”を持っているなら、一つの国が持っている様な特殊軍隊クラスの力が軽くあるだろう。


「正直、アタシは国なんてもんに興味は無いのよ。しかもカアラって国はね、どうも胡散臭くって好きになれないのよね」


 ……半分くらいは心だと思うが、後の半分は、何かを企んでいる気配がする。


「お前のくだらない計画に、俺様は付き合うつもりは、ない!」

「随分と強気じゃないの、アンタはいま丸腰だって忘れてない?」


 彼女が目の前に構えている銃をしっかりと握り直す。


「分かっていないのは、お前の方だろう」

「は? なにいって」


 彼女の持つ銃を力任せに殴り飛ばした。

 瞬間的に近付かれて驚いたようで、彼女の反応は鈍く、簡単に銃を弾き飛ばせた。


「いった~っ」

 遅れて後ろに飛び退いた彼女は、手を何度も振りながら痛そうに摩っていた。

 銃は壁の方まで吹っ飛び、強くぶつかって地面に落ちる。


「そんなに近くで扱う武器じゃないだろう」

「あ、アンタね! レディー相手に普通やる!」

「獲物を手に脅しを掛けて来た時点で、性別なんてモノは無意味だろう」

「うぐっ。そ、そうね……」

「これで――」


 俺が話を続けようとするが、遮る様にして彼女の大きな溜め息が聞こえた。


「分かってるわよ。本気だったなら確かにアタシが死んでたって言いたいんでしょ」


 俺は彼女の答えに、少し違うだろうと言いながら続ける。


「死にはしないだろう。まぁ、重傷は避けられなかったろうがな」

 淡々と言う俺の言葉が意外だったのか、口をポカンと開けたままで固まってしまった。

「な、なんでそう思うのよ」

「お前が銃を2丁、短剣が2口。持っているだろう、銃が殴り飛ばされた時点ですぐ逆の手が後ろ腰にあるもう一丁の銃に、伸びていた」


 俺がその場から動かず、追撃をしてこないと瞬間的に判断してすぐに手を放した。その事を見ても、状況判断の速さと対応力がズバ抜けて高い事が分かる。

 しかも、崩された態勢から逆手で撃ち易く、その上で手を隠した状態にして、すぐ対応できる様に体に捻りを加えて飛び退いた事も含めると、かなり計算高いと言える。


「アンタ、本当に何者?」


 彼女は頬に冷や汗を流しながら、ゆっくりと払い飛ばされた銃を拾いに行く。


「ん~、簡単に説明するなら。愛という名を背負う、罪な放浪者だ」

 意味不明という感じに一言、「は?」なんて呆れた視線が俺に刺さる。

「ぬ、外したか」

 まぁ、楓の事を知らない奴に言った所で分かる訳もない。


「いや、意味が……つか、なに。マジで迷子な訳!?」

「まぁ、少し違う」

「やっぱ、ここにある宝が目当てな訳ね」


 彼女は一層呆れた様子で銃を腰のホルスターにしまう。


「それも、ちょっと違うな」

「じゃあ、こんな時に、こんな場所で、何を目的なのよ!」


 じれったそうに右足をパタパタとさせながら、腰に手を当てて彼女が怒鳴る。


「ここにあるモノが本物の【魔神器】なら、俺はそれをどうにかして処分する」

「なんですって! 処分って、アンタなにふざけた事を言ってんの!?」

「ふざけて言っていると思うか?」


 俺は彼女の目を真っ直ぐに見据えながら、声を低くして言う。

 彼女はたじろぎ、少しだけ何かに押される様に一歩だけ下がる。


「マジ、な訳ね」

「俺の夢にはどうも【魔神器】の存在は邪魔でね。偽物だろうが本物だろうが、関係無く」


 本物なら尚のこと、楓が手にする前に壊さなければ。

 ちょっとでも楓が本来の姿に戻ってしまう場面を思い浮かべてしまい、居ても立ってもいられなくなってくる。

 無意識に握りしめていた拳から力を、何とかして抜く。


「というわけで、さらばだ!」

「あっ、ちょっと待ちなさい!?」


 反射神経がやはり抜群に良い女のようだ。

 俺は声と出すよりも早くに全力で走りだした、にも係わらず、彼女は俺の動作に若干遅れものの、しっかりと真後ろを追ってきている。


「はっはっは、こういう遺跡にある宝は先に手に入れた者のモノだと、たしか文献で呼んだ事があるんだが。それは事実の様だな」

「なんでそう思う訳、こういう遺跡のモノはその所持者が居るかも知れないじゃないの!」

 結構な早さで走っているのに、よく付いてこれている。程度の低い人間なら簡単にちぎれる程だ。それも女性、余程足に自信でもあるのか、喋る余裕まで見せている。


 ただ、ちょっとばかり彼女の表情は辛そうにも見える。


「そんなに必死になって俺に付いて来ているのが、何よりもの証拠だろう」

「アンタみたいな、訳の分からない奴にお宝を渡せる訳ないでしょう。アタシはコレでも、一流のトレジャーハンターって名乗ってるんだからね」

「ほぉ、お前がトレジャーハンターか。それを職としている奴は初めてみた」


 まぁ楓に会うまで、自分の領土である北方から出たことが、一度も無いだがな。




 ==『テメェ、つまらない奴だな』楓がたった一人で俺様の城に殴りこんできた時、俺様に向かって何度も、何度も繰り返して言った言葉を少し思い出した。


 古いモノから新しいことまで、城には各地の様々な書物があったし、集めもしてそれらを全て読んだ。知識に置いて誰にも引けを取らないという自身があった。

 強さに置いても、それは変わりなかった。

 北方の魔王の座に居た事が何よりの証明だ。


 それが、たった数日――


 勇者の血族でもない、ただの人間に俺様の……、俺の領土が壊滅的な被害を受けた。

 ボロボロになりながらも、俺の前に毅然と立っていた姿が今でも目に焼き付いてる。

 王座に就いてからというもの、誰もが俺に従うだけ。

 同等までに立てつく者も居ない、力を示そうとする者さえいなかった。

 東・西・南の領土を治める魔王達も俺の知識を頼りにするくらい優秀だった筈なのに、一人の人間にその全てを「つまらない」という、たった一言だけで変えられた。


 自分がいかにモノを知らないのかを。


 俺の持つ知識という力も、俺自身の魔法という力でも楓の心が折れる事がなかった。それだけじゃなく、楓は“王と国”についても様々な事に気付かせてくれた。楓は俺に「負けた」と言うし、心の底から思っているだろう。

けど、俺は正直、《楓に負けた》と思っている。

 魔王として、俺を俺と証明するモノ全てを、楓は容易く受け止めて立っていた。

 それでも、楓は変わらずに俺に言った言葉がある。


『貴様は力だけで強さの一つもない、つまらない奴だな』

 この言葉だけなら、きっと楓を始末して終わっただろう。だけど、北方の領土でたった一人、戦ってきた楓が言わなかった言葉が幾つもある。


 楓は《卑怯》だとも《ズルイ》なんて言葉の類を一切使わなかったのだ。

 ありとあらゆる手を使ったのに、楓は最初から最後まで、しかも真正面からやって来て俺の前に立ったのだ。その上、ボロボロの状態から俺自身に全力を出させ、尚も勝ちに向かってきた。しかも戦いの最中に、敵である俺に本気で怒ったりするのだ。


 まぁ、そこで楓に惚れたんだが……。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る