7話 まきこむヤツ、巻き込まれる奴
ゴゴゴッ――ゴンッ! ゴロゴロ――
「うぉおぉおおおぉ~~~!?」
松明を片手に涙目になりながら全力で走り続ける青年が一人いた。
通路は薄暗く、一定距離に点々と存在する。
多分だが、光系魔術で灯されているであろうランプがある程度で、足場はフィズの手に持っている松明でようやく視覚で確認できる。
しかし、いまフィズには先の道なんて今は注意し、確認しながら進む余裕なんて無い。
「はっは、ぬおっ!?」
地面の凹凸に足を取られようと、死に物狂いに前へと走り続けた。
良く見ると、フィズの服はあっちこっちに破れ、穴のあいた箇所がある。
そしてフィズの後ろから大きな岩が、物凄い地響きを鳴らしながら転がって来ていた。
「なんだこのトラップの多さは!? まるで俺の動きを見透かしたように、ちょうど良い感じの所に仕掛けてやがんだ! コレ作った奴は絶対に陰湿で根暗だろ」
緩やかなカーブに気付かず、壁に手を付いて慌てて方向を変えた。のは、良かったが、その手に付いた場所の石が凹む。
でもフィズは走るのを止める訳にもいかず、態勢を崩しながら走り出す。
「な、なんだ? 不発か?」
気になって少しだけ後ろの方を確認すると、さっきよりも早い速度で岩が転がってきたのか、いつの間にか余裕の無い距離まで近づいている事に気付く。
そして、段々とこの通路の薄暗さに目が慣れてきて、遠くが確認出来る様になったフィズは更に追い詰められている事を知った。
「おっ、え!? 道! 道どこだよ!?」
まだ距離はあるものの、どうも行き止まりのようだった。
というか、どう見ても行き止まりにしか見えなかった。
点々と一定距離にあったランプが、目の前の壁の位置に付けられているのだ。
しかも、ご丁寧に上と下の方にも。ここは壁ですと言わんが如く。
「ちょ、待て待て待て待て、待って~~」
左右に松明を振り、どこかに道が無いか探すも、どう見ても一本道のようであった。
徐々に近付く壁を前に、一瞬止まって転がって来る岩を無理やりにでも止めれば、なんてフィズは考えてもみるが、致命傷は避けられそうにないのでやっぱり止める。
一生懸命にどうするかをフィズが考えていると、急に耳触りな音が聞こえてきた。
重く引き摺る様な音が辺りに響き始める。
目の前の壁だった、ランプが二つある箇所が上へと動き始める。
縦長で四角い支柱の様になっていたらしく、そのが開くと十字路になっている。
ちょうど人が通れる広さだった。
「ほ、ほら見なさい。ちゃんと開いたじゃないの」
「今の、お前さんか?」
「いやいや、何もしてなかったですって」
「五月蠅いなぁ。開いたんだから良いじゃない。ここが開くって事自体は当ってたんだし」
そこが開いていくごとに、人の話し声が大きくなって聞こえてくる。
けれどフィズにはその声が聞こえていなかった。
「なんだかしらないが、ラッキー!?」
前に障害が無くなったフィズは、何も考えずに勢い良く飛び込んだ。
「さあ、ちゃっちゃと進むわ、よ――」
「んなっ!?」
フィズは十字路の左側から突如として現れた女の子を、押し倒すようにして奥の通路へと転がり、すぐさま後ろから転がってきた大岩が十字路に衝突する。
彼女と居たであろう他の者も、ギリギリの所で気付き元来た道に飛び込んだ。
走っていた勢いもあるが、大岩の衝撃も加わり少し遠くまで飛ばされる。
巻き込んだ女の子を庇うように抱き抱え、地面に背中を打ちつけながら転がっていく。
それでも勢いは殺せず、路面に全身を滑らせることで止まる。
「っくぅ~~、キクなぁ」
「いったぁ~、もう何だってのよ」
突然の事で何が起きたか分からなかった女の子が、ようやく強張らせた体の力を抜いて辺りを確認するように瞼を開いた。
彼女はフィズの顔を見ながらしばらくジッと動かなかった。
真っ直ぐにフィズの瞳を見て、そのまま沈黙が続く。
「あ、あははっ! ふぐぅ!?」
フィズは下腹部を女の子に殴られて思わず噴き出し、その場で悶絶する。
「いつまで抱きついてんのよ」
「す、すいまへんでした」
解放された女の子は、衣服に付いた埃を払いながら立ち上がる。フィズも殴られた部分を右手で摩りながらゆっくりと立った。
転がってきた岩のせいで、後ろの十字路が滅茶苦茶に崩れてしまっていた。
「フリアさん大丈夫ですか!?」
その崩れた奥から男の人の声が響いて聞こえる。
「えぇ、こっちは問題ないから、アンタ達は戻んなさい!」
「しかし!」
「アタシはね、こういう事に慣れてんだから、気にしないでいいわよ」
岩を何とか退かそうとしている様な音も聞こえるが、簡単には退かせそうにない。滅茶苦茶に崩れた壁や、そこにはハマる様にして割れた岩で完全に道が塞がっている。
「無理しないで戻んなさい。それと、無理に道を探して追い付こうなんて考えないでよ」
「けれど、私共はフリアさんの護衛を言い使っているんです」
「バカ。アンタ達は遺跡を舐めすぎ、下手したら命を落とすのよ!」
「わ、分かりました」
「イズだって、ちゃんと説明すれば分かってくれるでしょう」
「はっ、そうまで言われるなら…… しかし御一人で大丈夫でしょうか?」
「別に問題無いわよ。元々、アタシは一人でやっていたんだしね」
それに、とフリアと呼ばれた女の子がフィズの方を向く。
フィズはというと、彼女達が戸惑っている内にこっそり逃げ出そうとしていた。
「なんか知らないけど、ここに一人、使えそうなヤツが居るしね」
彼女は腰の辺りから回転式型拳銃を取り出して、フィズの後頭部に狙いを定めた。
これで、逃げようという算段も阻止される。
「敵ですか!?」
「違うでしょうね、彼等が着ていた民族的な衣装でもないし。それにコイツってば、なんの武器も持ってないもの、外はあんな情況だっていうのに。敵なら【術器】くらいは持ってないと可笑しいしね。ん~、同業者?」
「嫌だなぁお嬢さん、俺ってばただの迷子だって――」
いいかげんにその場を誤魔化そうとしたのだが、どうやら逆効果だったようで、
拳銃の発砲音が唐突に響き渡る。
フィズの耳元を何かが掠り、通り過ぎた。
「御茶を濁そうとしてもダメだかんね。次に変な考えを起こしたりしたら、今度はマジな術弾がアンタの脳天を目掛けて飛んでくわよ」
「へい、了解っす」
――まだ情け容赦がある分、楓よりもマシだな。これが楓だったら容赦なく一撃目を当ててくるに違いない、しかも急所を確実に狙ってくるからえげつない。
なんて事を思いながら両手を頭の上に乗せる。
フリアが安全だと確信した兵士達は、次々に「ご武運を」と告げて去っていく。
最後の一人の足音が遠ざかるのを彼女が確認すると、改めてフィズの周りを一周しながら全体をくまなくチェックしだす。
引き締まった体付きで服の上からだと少しだけ出ている事が確認できる程度のスタイル、健康的でいて綺麗な肌が印象に残る。少しつり上がった目をしているが、怖いというよりも明るめな女性という印象をうけた。
セミロングの淡い黄色のサラサラした感じの髪質だった。
「アンタ、何者?」
「だから迷子――」
彼女は無言で拳銃のハンマーを耳元で起こした。
ワザとフィズに聞こえるように。
「カアラ国の奴でもなさそうだし、もちろんここに来ていた軍内にアンタ見たいな格好をしていた奴なんて記憶にないのよ」
「軍だって?」
フィズの言葉も無視されて、彼女は淡々と続けて話す。
「ここの遺跡を守っている、守人って訳でもなさそうだしね」
とにかくフィズは思考を巡らせて、遺跡に居そうなモノを考えた。
一つだけ思い当たるモノがあったのだが、
「とれ――」
「もし、トレジャーハンターとか分かりやすい嘘を言ったら、即ぶち殺すかんね」
危ない所で口をつむぐしかなくなってしまった。
「はぁ、本当にただの迷子だって」
もうどうでもよくなり、両手を下ろして今度はフィズが真っ直ぐに彼女を見やる。
「アンタね、こんな所に迷い込む訳ないでしょう!」
フィズにはなぜ彼女がイライラしているのか。
なんて、そんな考えを巡らせる気すらないらしく、据わった目で彼女を見据える。
「まぁ、そうだわな。だが、俺は個人的な理由でここに居るだけで、どうでもいい様なお前に危害を加えるつもりは毛頭ない無い。それに悪いが、俺はかなり急いでるんだ、くだらない話しなら後にしてくれ」
「ダメよ、個人的な理由って言うんなら尚更ね」
何故? とフィズは首を傾げる。
「ここに居る理由って、【魔神器】でしょう。悪いんだけどアタシの獲物でもあるのよ」
彼女の“魔神器”という言葉に、思わず顔が反応してしまった。
もちろん、彼女がその些細な変化を見逃すはずもない。
「やっぱりね」
薄笑いを浮かべながら、銃のハンマーをゆっくりと戻す。
「どうやってこんな奥まで入って来れたのよ?」
さっきまでの緊張感とは打って変わって、率直な感じで話しを進め始めた。
そんな彼女の急変に戸惑いながらも、ここまで来た経緯を彼女に説明する。
ただし、最大かつ重要な楓の存在を半分くらい大まかに省いての説明だった。
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