エピローグ

「……長かったね」


純白のクラシックなドレスを着た彼女が、ベールで顔を俯かせている。


「ああ、本当に長かった」


これまでの事を思い出していく。

大学に行くと同時に、海外にかすみと一緒に渡った。

渡ったとはいっても、家こそ一緒だがカリキュラムは当然別だし、同棲とは言ってもあんまり恋人らしいことは出来なかった。


でもかすみがいたから乗り越えられた、ともいえるぐらいには頑張った。

ただただがむしゃらに。

一杯いっぱいだった。


すべては治療薬を創るため。


なんだかんだ、海外で医師をやりながら研究をした。

流石は英国というべきか。

日本だったらこんな早くに最先端の治療に触れられなかった。


かすみはかすみで、翻訳者になるために留学したが、そのまま日本には戻らず、

翻訳家として、現地の出版社などで働き始め、今では順調に軌道に乗せた。


だからこそお互い忙しく、日本に帰ることはあまりなかった。


ただそれでもかすみは帰れるときには、帰っていたし、俺も俺で、ない時間を捻出してたまには親父とかとはしゃべった。


そして、この8年近くでも母さんの病状はかなり進行した。

進行抑制の薬も使いながら、リハビリもかなり行い、何とか持たせていた。

ただこの1年ほどで、もうほとんど寝たきりになってしまった。

だけどどうにか間に合った。


この10年色々あった、本当に。


「あっという間だったね?」


「うん」


「私もうアラサーになっちゃったよ?」


「それを言ったら俺もだよ?……でも相当待たせたねごめん」


ベールをゆっくりと上げる。

ベールの下には、大学生の頃よりも大人っぽくなったかすみの姿。

その顔は笑顔とも、泣き顔とも言える複雑な表情をしている。


「ううんそれでも充実した時間だったから……結婚式を挙げること出来てよかったね?」


かすみがそう言って悪戯っぽく笑う。

対して俺は本当にほっとしていた。


「……留学に行く前に、かすみがいきなり、「治療薬できたら私のウェディングドレス見れるってことにしよっか」なんて言われたら、そりゃ意地でも創り上げるでしょ、これ逆に言うと造らないと、結婚出来ないってことでしょ?」


そこまでじゃないけど、とかすみは困ったように笑う。


「途中狂ったように研究してたもんねぇ、私が止めないと3徹とか普通にしご飯も睡眠もとらないんだから、困っちゃうよぉ」


「その節は大変な失礼を……でもそれはかすみのドレスみたいからだよ?」


10年後しの、いや20年越しの夢が、本当に長年の夢が叶った。


「ふふ、そう言うところは本当に変わってないね?ね、そろそろみんな待ってるし?」


かすみが目をゆっくりと閉じる。

それだけで何を望んでいるか、分かった。


誓いのキス。


生憎と俺は神を信じたりはしないけれど、それでも俺は俺自身に誓おう。


もう離さない、と。


普通は頬に手を置いたりするんだろうな。

だから俺は頬に手を置きながら指で、かるくかすみの耳を撫でる。

2人で今もしているお揃いのピアス。


今日もそれはつけている。

2人で一つ。

そんな意味合いの込めた誓いだった。



かすみにも意図は伝わっただろうか。



彼女の眼からツーと涙がこぼれる。

その様子を見ながら俺はゆっくりと顔を近づけ、触れるようなキスをした。



パチパチパチパチ、と拍手が鳴りひびき、その音は次第に大きくなっていく。

鳴りやまない拍手。


チャペルチェアに座っている参加者はほぼ総立ちに。

お互いの両親も、参加している。

さすがに母さんは車椅子だけれど。



こうして俺たちは夫婦となった。



披露宴、それにブーケトスも終わり、2次会へとみんなが移行していく。


「じゃあ俺たちはそろそろ……」


そう言って俺とかすみはホテルに戻る。

結婚式に伴い取ったスウィートルーム。

そこに戻った瞬間倒れこむ。


「疲れたぁぁぁ」


「あはは、さすがに疲れたねぇ」


「親父たちはこれからも飲むらしいね、元気なことださすが元ブラック企業社員」


「いい歳なんだから程々にして欲しいよね、まあお母さん達いるから大丈夫じゃないかな?」


ああそっか。

もう母さんもいるのか。


「なら大丈夫か」


「うん、それよりはいお酒」


そう言って、かすみが部屋に備付けのビールを渡してくる。


「お、せんくす」


かすみはお酒あんま強くないから、カシスオレンジぽいものかな?


「ひとまずおつかれ!」


「おつかれー!!」


久々に飲むけどビールって何が美味しいんだろ!

まあなんか癖になるんだけどさ。


明日からは新婚旅行に行く予定。だからなるべく今日は早めに寝ないと。


「明日からも楽しみだね」


かすみがワクワクと、観光雑誌を手にしている。


「久々に取れた休みだから、満喫しないと」


「ビーチでゆっくりしたい!」


「あーそれもいいねぇ、あとは観光地とかも行かなきゃね〜」


「私にお任せ!」


この10年旅行とかほとんど行けなかったからなぁ。

そんなことしてる暇がほとんどなかったし。


「まあそれは明日の飛行機でお願い。明日に向けて、そろそろお風呂でも入って寝よう」


「そしようかぁ」


お風呂は都心の夜景が見える立派なもの。

ジャグジーも付いていて、疲れた身体によく効く。


「あぁぁぁ、きもちぃぃぉ」


「あはは、おっさんみたいだよぉぉ」


「あっちだとあんまお風呂入れないから久々だと効くのよこれが」


「シャワー多いもんね」


最初はほんとになれなかった。

今は長く住んで、否が応でも慣れたけどね。


お風呂でも2人で少しお酒を飲んで。

キングサイズのベットで横になる。


「あー布団が俺のホームだァァ」


「何言ってるの〜もう」


かすみがしょうがないなぁ、とお酒を揺らしながら笑っている。

その頬はほんのりと赤い。


「ね、たくみ?」


「んー?」


「…………しよ?」


かすみがバスローブをはだけさせる。


あぁ。

何度見ても飽きないその肢体。


「かすみ」


かすみの身体をギュッと抱き寄せる。

触れ合うようなキスじゃない。

貪るように、求めるように。

舌を絡ませていく。


さっき飲んだカシスオレンジの香りがした。

お酒を何杯か飲んだかかすみも酔っ払ってもいるだろう。

俺はそもそもずっもかすみに……


「ねぇ」


ふとかすみが、


「そろそろ…………欲しくない?」


なにが、とは言わなかった。

言わなくてもわかった。


「だから、今日は、ね?」


言葉は要らなかった。

しなだれかかるよう抱きしめる


「昔からずっと愛してる」


「私もよ」


3人目の家族が増えるのも、時間の問題かな。

でもひとまずは、今日は早く寝れないかもなぁ……はは。








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ひとまずこれにて完結です。

長い間、本作をお楽しみいただきましてありがとうございました。

本作は本編はひとまずここまでですが、今後SSやmアフターストーリー的なものはちょろちょろ考えてますので、それも見ていただけると幸いです。


因みに次回作も既に考えておりますので、気になる方は作者フォロー、並びにTwitterのフォローしていただけますと幸いです。


@KakeruMinato_


更新予定は8月ごろを考えています。


次回作のタイトルだけお伝えしておきます。


「正妻戦争~純愛主義の俺がハーレムを作る羽目になった訳」


よろしくお願いいたします!

あ、最後に評価とかフォローし忘れてた方いたら最後にお願いします。

それでは!また!

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