第99話 俺は……


「……巧がどうしたいか、教えて?それが現実的かどうかとか、出来るかどうかとか、そう言うのじゃなくて、どうしたいかだけ。巧の100点満点の望み。どうしたいか、どうなりたいのか、それだけ教えて?」


かすみの真剣な眼差し。


俺の望み……。

どうしたい、どうなりたい、か。

夢でも希望でもいいのなら。

なんでもいいのなら。

……それなら俺は――


「……俺は、さ」


「……うん」


考えはまとまりきってない。

いや、多分まとめる必要もない。

ただ望みを言うだけだから。

いつもみたいに現実的で実現可能とか考えるんじゃなくて、とかじゃなくて、すべての望みを言えるとするなら……。


「俺は……多分母さんを助け……たい……んだと思う」


そう話した瞬間、かすみがほほ笑む。


「……そっか……やっぱり優しいね」


優しい……か。

そこだけ聞けばそうかもね。

でも……


「ううんそんなことない、俺は優しくはないよ全然。……確かに母さんは助けたい。助けたいよ、母さんの事情は分かった。なんでああいう風に、わざと恨まれるかのように言ったのかも、理解は出来たんだよ」


「うん」


「だけど、だけどさ、それでも同時に母さんを許せない気持ちも確かに混在してるんだよ」


「……許せない……?それっていうのは……巧たちに嘘をついたこと?」


「うん、理屈では分かっているんだ。母さんなりに俺らのことを考えてやった結果だとは。それでも……どうしても許せないんだよ、理屈じゃなくて感情が、俺の心が許せない。そう言うのはそういうのこそちゃんと……家族に相談してほしかった」


だって……


「そういう、一番つらい時にこそ相談とかできるのが……家族ってものじゃないのか?……わかんないけど、世間一般ではもしかしたらそうじゃないかもしれないけど、俺は家族とはそういうものであってほしいし、……そういう家族になりたかった……」


「うん、そうだね。私たちが家族になったら、そういう家族をめざそ?……でも巧と、お父さんお母さん、三人の関係については、どうしたい?」


どうしたい……


「前みたいに笑いたい、なにも思うところなく。だからそのためにまずあのありったけの母親に罵詈雑言ぶつけて、間違いを認めさせて、それできれいさっぱりに終わらせたい…………その元凶の病気も含めて」


そうきっとこのまま、俺も親父も元に戻ろうとしたら戻れると思う。

でもきっとそれは絶対しこりが残る。

それこそ、ひび割れたお皿をずっと、つぎはぎして使い続けるようなもの。

水はこぼれるし、いずれ壊れる。

多分誰も本当には幸せになれない。

本当の幸せがどんなものかは分からないけど多分違う。


そんな仮初なら、それならばいっそすべてをぶち壊し、1から始めたほうがいい。そう思う。


「修理じゃなくて再構築……ってことだよね。うんわたしも巧の意見に賛成だよ、だって私も、真希とがそうだったから。言いたいこと言って、それで時間をかけて今もまだその途中だけど真希とも少しづつ距離は縮まってる、だからスケールは違くてもやりなおせないなんてっことはきっとないと私は思うな」


かすみがほほ笑む。

うん、確かにそうなんだ。

これでいいはずなんだ。


なんだけど。


「……浮かない顔をしているね?まるで自分の選択が間違っているみたいな顔」


みたいなもなにもそのまんまそうだ。

間違ってる、いや違うか。

そんなの都合がいいと思ってしまう。


「確かに母さんの責はある。でも俺が【野垂れ死ね】って言ったのもそれもまた事実だし、罪だとおもうんだよ」


「でもそれはあくまでお義母さんが……」


かすみが言いたいことも分かる。


「あの人が誘導したってことでしょ?それは分かってる。でもあの言葉を吐いたのは俺だ、ひどいことを言ったのも俺だ、母さんの言葉を疑わなかったのも。あの言葉を吐いたのは俺の責任なんだよ」


「……それはそうだけど……それはあまりに」


「自罰的……かな?」


「うん自罰的。自分に厳しすぎ」


そこまで自分を追い詰める必要はないと思うよ、とかすみはなかば祈るように俺の手を握る。

でもその顔は晴れない。

多分俺がなんて答えるかもう予想ついてるんだ。


「これは誰のでもなく、俺自身の責任だから……」


「ほんっと不器用だよね、巧は。それでどうしようと思ってるの?」


俺は……


「具体的にはまだ全然煮詰まってないし、本当にこれでいいのかもまだだけど。俺は俺で罰を受けないきゃいと思う。だからもしかしたら親不孝者になるかもしれないけど……今考えてるのは……」


そうして簡単に話す。

俺がしようとしていることを。

それを聞くと、かすみは驚き、心配そうに見つめてくる。


「そっかそっか……うん。自由に、ってはいったけど、本当にとてつもないやつが来たね、でもいいの?それをして失敗したら巧はそれを背負うことになるよ?ううん失敗する可能性の方が絶対高いんだよ?」


「だから罰になるんだよ、俺にも母さんにも。それに最初から失敗するためにやる、奴なんていないいでしょ?成功すればいいだけ」


「でもそれが難しいから……」


「自分でもそれはそうおもうよ。多分誰も出来なかったから、今もまだ実現していないんだし。でも出来るかどうかとか、じゃなくて、かすみが言ったのはどうしたいか、だからさ」


そう言ったら、かすみはふっと笑った。

認めてくれた、かな?

いやこれはもう呆れか?


「上手く行けば都合いいどころか全部まるっと解決しちゃうね。……もう少し、計画というか進路を煮詰める必要はあるよね~。でもそのためにはどこに行って勉強するがいいかとか、今の現状とかもっと調べる必要もあるよね?」


「……えーっと」


「それに多分現状だとぉ……」


「ちょちょ、ちょっと待って」


「うん??」


どうしたの?とこてんと首をかしげるかすみ。


「かすみは反対とか、したりはしないの?自分で言っておいて何なんだけど、結構というかかなり難しいことを言っていると思うんだけど……」


「うん死ぬほど難しいと思うよ……でもそれは反対する理由にはならなくない?私はさ、巧は巧のしたいことをすればいいと思うのよ。やらない後悔ほど意味の無いものはないと私は思ってる、なら1度しかない人性全力ってやってみたらいいと思うんだ」


「……なるほど?」


「その顔は全然分かってない顔だねぇ……例えば巧は私が何か目指すもののために海外に行きたいって言ったらどうする?ちなみに夢をかなえるためには、海外に行くのが最短だとする」


かすみが海外……にか。

そんなの答えは決まってる。


「そりゃ応援するよ全力で、会えないのはさみしいけど、それでも俺は俺のためにかすみが自分の夢を諦めるなんて嫌だから。かすみのためならちょっとの我慢位余裕だから、さ」


「……えへへ、そういわれると恥ずかしいけど、でもそう言うことだよ。私もまったく同じ気持ち、巧の夢を応援するだけだよ、しかも巧は自分の人生のこともちゃんと考えているでしょ?だから私からはなにもいうことはなーし!だから私がすることは一緒に頑張って、あとは隣で応援するだけでしょ?」


「……ありがと」


「ううん、それに最悪巧が夢破れてニートになっても私が養えばいいし?……眼に光をなくした巧を好き勝手……でへへそれはそれでありかも??」


なんか途中で欲望になってない?


「養われるのも限りなく魅力的ではあるけれど、……でもそれは最後の手段。そうならない様に頑張る、ううん実現させる」


「それに巧はこう、と決めたらもう曲がらないでしょ?だって大事なことなら誰がなにを言おうがぶれない人だから」


「それよくいってるけど、……つまり頑固者ってこと?」


ううん違うよ、とかすみ。


「超、超超超、ちょーーーーーーーーう頑固者!!」


「そこまでじゃないと思うけどなぁ……」


「彼女の私が言うんだから間違いありません!!!」


「……まぁそれでもいいや、じゃあこのままもうちょい調べ物を――んっ?!」


しようとして、唐突に唇をふさがれる。


「だーめ、その前に」


かすみがちらりとトップスのお腹をめくりあげる。


「一旦……しとこ?」


たしかにここ最近あんまり出来てなかった気もするし、溜まってるっちゃ溜まってる。


「確かに休憩は大事……だよね」


そのままかすみに覆いかぶさる。

甘い甘い匂い。


さっきは別のことで頭がいっぱいだったけど、今だから感じる。

かすみの匂いが、そのすべてが扇情的で、俺を誘っている。


「うんメリハリが大事大事。さっきもさっきで実はやばかったんだよ?たくみの普段見ない姿を見て……昂っちゃって」


だから、とかすみ。


「はやく部屋……いって発散させて?わたしのストレスを」


甘くとろけ合って……。




翌日、深刻な顔をした親父が帰ってきた。



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最終話まであと4話






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