第98話 どうしたい?


「そう…なんだ……ごめんね、辛いことを話させちゃって……」


「いや、俺も話そうとは思っていたから、こっちこそ重い話をしちゃってごめん」


「ううん、巧が大事なことを打ち明けてくれてよかった……今までの巧なら落ち込んで、自分でなんとかしようとしてたはずだからさ。……これからも今回みたいにもっと私を頼ってほしいな~」


「……うん」


でもそのあとは俺も言葉が続かず、かすみもなにも言わない。


そりゃそうだ、かすみも軽く言葉を発せるわけじゃない。

俺ですら叔父さんから話を聞いて、それなりに時間が経っているのにも関わらず、どうしたらいいか全くわからない。


全然考えがまとまらない。

心がぐちゃぐちゃでどうにかなりそうだ。


目の前では、かすみが眼をつむってなにか考えている。


なにかしようとか考えていた訳じゃない。

ただ気づいたら俺の身体は動いていた。


「わわっ?!びっくりしたぁ……」


かすみはそう言いながらも、胸にとすんとおいた俺の頭を、優しく抱きしめてくれる。


労わるようにやさしく、かすみの両腕が包み込んでくれる。

かすみの温かさと、甘い匂いと、そのすべてに包まれ癒される。


「ちゃんと辛いときに、辛いって言えるように、行動で巧はだせるようになったよ。えらいえらい」


かすみが柔らかな手で、俺の頭をやさしくなでてくれる。

成長成長だよと言って、頭を撫でてくれる。

前だったら、気恥ずかしくなって、大人に見られたくて、こうされるのはなんだか嫌だった。


「かすみ……ありがと。もうちょっとこのままで……お願い」


でも今は不思議と安心する。


「ふふこれくらい、お願いなんてしなくたっていつだってしてあげるよ。昔はよくしてあげてもいたしね」


「……そうだったね」


なんだかんだいつも隣にいて寄り添ってくれたのは、かすみだもんな。


あぁかすみに溺れる。

だってそこがあまりに心地いいから。


彼女の、甘い、甘い、香り。

それでいて落ち着く不思議なにおい。


いつだって、きついときにはこうしてくれた。


「……うんそうだよ」


顔は見えないけど、多分優しい笑顔を浮かべている気がする。

いつもそうだ。


何かあったら彼女に頼って。

……俺はちゃんと君の役に立てているかな?


あぁ、こんなこと考え始めているのが既に良くない。

メンタルが終わっている証拠だ。


マイナス方向にしか物事を考えられなくなっている。

胸にどんどん埋まっていく。


「……ばーか、目を離すとすぐにマイナス方向に考えちゃうんだから」


こつんと指で頭をつつかれる。


「っ」


「大丈夫だよ、私もあなたにいつも助けてもらってるんだから、日々の癒しとかだから巧は気付かないかもだけど、ね? 前も言ったでしょ? 私は君のおかげで人生彩られた……って」


「…………ありがと」


ふむ、とかすみは一瞬考え。


「……そんな感謝してもらうことじゃないよ、普通普通、だって私彼女ですから!」


ふふんと、胸をはるかすみが目に浮かぶ。

まぁ今は俺が胸にいるからできないけど、多分いなかったら胸張ってたね。


「そっか、うん」


そのまま少しだけゆっくりして、俺も落ち着いてた時に、コーヒーを持ってきてくれる。

それを飲み、そして一服したところで、対面のかすみが聞いてくる。


「聞かれたくない話かもだけど、ごめん聞くね。いやな気持ちになったらごめんね。今後……どうするの?」


……だよな。

そうなるよな。

このまま嘆いていたってしょうがないんだから。

でも……さ。


「ごめん、いやなこと聞かせて、そしてありがと。俺の為を想って話くれてる人の言葉で怒ったりなんかしない」


「ううん、それは分かってるけど、でもちょーっと出過ぎてるかなぁって私自身が思ってたから言ったの。でもそう言ってもらえるとよかった」


そういいながらもかすみは少し安心したような顔をする

そうはいってもやっぱ不安だもんね。


「普通こういうデリケートな問題はゆっくりと解決していくべきだとは思うけど、お母さんのことを考えると、あんまり時間をかけない方がいいと思うんだよね」


「そうだよね、それはそう。病気がどれくらい進行しているかわからないし……」


実際進行がどれくらいなのか。

それは分からない、がたぶんではあるけど。


「……あくまでこれは希望的予想ではあるけど、たぶん母さんの病気が分かったのはここ1年以内とかだと思うんだ、病気がある前提で考えれば、健康診断に引っかかった話があったから、実際そのあたりじゃないかな?」


そして、その段階で分かり、ALSの主訴であるしびれはこないだ見たときも薬剤とかは飲んでいたのかもしれないけど、それほど目立っていなかった。

となると……


「まだ比較的早期の段階なんじゃないかな、っては思うんだ」


「時間的猶予はまだ残されている……ってこと?」


「うん、そうかな?」


医者じゃないから確実じゃないし、ネットの情報だから何ともいえないけどね


「少なくともそれくらいの症状なのはまだ喜ぶべき、なんだろうね……」


「……うん、まぁ逆にまだ猶予があるからこそ今回みたいなことをしたとも考えられるけどね」


「あっ……」


後で巧とかお義父さんに苦労を掛けないため、ってことかとつぶやくかすみ。


「お義母さんの気持ちも分かるけど……やるせない、よね」


……やるせない。


うん、その言葉がしっくりくる。

落ちついて客観的に考えて、ようやくわかる。


「しかも考え方次第ではあるけれど……人の気持ちとかそう言うの全部抜きにすれば、母さんの考え方も理解はできちゃう。できちゃうからこそ、じいちゃんたちも理解を示したし、理解はしたけど、納得は出来なかった叔父さんが俺に教えた、ってところな気がするんだよ」


「うん」


落ち着いて、だからこそ感情がより発露する。


「だから余計むかつくんだよ!!気づかなかった親父にも、勝手にすべてを決めた母さんにも、じいちゃんたちにも、勝手に希望を押し付けた叔父さんにも正直苛ついている!」


「巧……」


「こんな重い事実を俺に聞かせて、どうしろっていうんだよ!叔父さんは隠していたことを俺に教えて、何を伝えたかったんだよ!確かにどんなことでも聞く覚悟はあったさ、ああ。でもそんなこんなのって……だったら俺は母さんにあんな言葉を吐いた俺は!!だから結局は、俺は自分自身を1番許せないんだ……」


気付かなかった自分に、違和感なんてあったのに。

疑いもしなかった自分に。

残酷な言葉を突きつけた自分に。


そう、それが全て。

何を言おうと、俺は俺を許せなかった。


「……そう思っちゃう気持ちは分かる、巧の気持ちを全部理解してはあげられないけども、察してあげることは出来る。でも今はそれを考えるよりも……考え方を変えてみたほうがいいじゃないんかな、変えたら自動的にその問題も解消するかもよ?まぁそれが難しいんだけど……


考え方を変える……?


「そう!言い方は悪いかもしれないけど、今巧が悩んでることは全部、過去の事だと思うんだ。叔父さんがなんでいったか、巧がなんで気づけなかったのか、なんで、どうしてって。でもさ極論、それって考えてもどうしようもなくないかな?だって過去のことだから」


「それは!!……そうだけど」


「さっき言ってたでしょ、時間は残されてるかもしれない、でも残されていないかもしれないんだよ。なら過去を悔いている暇なんてないんじゃないかな?……今ならまだが出来る選択肢も、今だから間に合う選択肢もきっと残っているはずなんだよ」


何がなんていう具体的な選択肢は分かんないけどねと付け加えるかすみ。


そりゃそうだ、でもそっか、今だから出来る選択肢……。

かすみの両手で顔を前へ固定される、真正面にはかすみの真剣な目。


「いつまでも下を向かないの、成瀬巧!!私のことを好きで諦めきれなかったあなたは何をしたの!どう行動をしたの?……それを思い出してみたらいいんじゃないかな?」


かすみの喝。

けして大きな声ではないけど、心に響く。


そしていったあとに「……がらじゃなかったと」と軽く赤面するかすみ。


「俺は……」


あの時俺は何をした。

勉強をした。

何のために?


大人っぽくなるためだ。


じゃあなんで大人っぽくなりたかったんだ?

簡単だ、かすみに見合う男になるためだ。


じゃあ今回はどうだ。

俺は今どうしたい。


母さんとの関係をどうしたい?

母さんの病気とどう向き合って、どうしたい?

俺は許せるのか?

家族をどうしたい?


……俺は今どうしたい?


そう考えていったら、不思議と答えは出てきた。

そこからどんどん考えをまとめていく。

どれくらい考えていたのか、でも方針は出た。


「……かすみ?」


スマホを眺めていた彼女によびかける。


「……うーん?ってあ」


「……俺は諦めが悪い男なんだ」


そう伝えただけで、かすみは何かを察したのか、一瞬きょとんとして、そしてにこっと笑う。


「うん知ってる!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

久々に二人の絡みを書いたなぁ。

さてストック無くなりましたよ、と、はは(´;ω;`)


それにしてもかすみんマジ尊し……。


沢山のフォローと応援ありがとうございます。

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これも皆さんの応援のおかげです。

ありがとうございます。

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