第86話 3つのお願いと決意のカチコミ
「どう? 最初よりは少しは気分が落ち着いたかな?」
「……大分落ち着いた」
爆発しそうなほどの怒りはもう抱いていない。
だからと言って、あの女にも親父にも怒っていないっと言ったらうそになる。
でもなんで俺があの人たちに怒りを抱いているのか、それをちゃんと整理できた。
まぁあの女にあったら、次こそは罵詈雑言浴びせたててやるとは考えてるけど。
それはそれとしても……
「いつもいつもありがと、かすみ」
大事な時に助けてくれて……。
かすみがいなきゃとっくにつぶれてたか、メンタルやられてたか、まぁどっちにしろろくなことにはなってない。
「ううん、今回はたまたまそこに私がいて気づいただけ、だからさ、巧は独力でもきっと何とかはしてたと思うよ。時間はかかるかもしれないけど」
「そんなことはないよ…………」
「ううんそんなことあるくらいには巧はできちゃうんだよ…………でもそうだなぁ…………このままじゃ巧の気が収まらないよね?……なら3つお願いを聞いてくれたら嬉しいな〜」
み、3つ?
な、なんかこんなこと前にもあった気が……
「いいよそれで」
「……じゃあ早速1つ目!」
「うん」
「今度一緒にどこか旅行行こ!クリスマスはさすがにもう厳しいから……年始とか!2人でゆっくり温泉でも行こ!」
「もちろん!」
二つ返事で了承する。
2人でゆっくりとしたい。
来年になったら受験とかで忙しくなるし、イケるうちに、ね?
「ありがと!じゃ続いて2つ目!」
「うん」
「巧はもう我慢しないで?」
「…………え?」
「私にはもちろんだけど、さ。巧は自分の気持ちをもっと表現してもいいと思うんだよ。まぁこれは昔からの大人っぽくなろうとしたからなのかもしれないけどね。だからせめて近しい人にくらい不安とか怒りとかそういう自分の気持ちを表現するように努力してほしいな」
近しい人に不安……か。
「でもそれじゃ人に甘えてることにならないか?…………ちゃんとなんでもこなせるようになって、ようやく1人前になるんじゃないかな? 大人ってそういうことなんじゃないのか?」
「あ~、確かにそう言う考え方もあるよね~、うん」
この言い方ってことはかすみはすこし違うってことかな?
「巧は何回も言うけどなまじ能力が高いからそれが出来ちゃうんだけど、さ。それでも今回みたいなことになった時、心の負荷を超過したとき、爆発しちゃうんだよ」
「だから俺は未熟なんじゃないの?」
「ううん。大人でも耐えられないよ。だからみんな、友達と旅行行ってリフレッシュしたり、長期休みには実家帰ったり、またまた同僚とかとお酒飲んだりして、みんなで乗り越えてったり負荷を発散するの。大人になるってことは、苦しさを誰かと共有できたり処理できることじゃないかな?仕事だって、私だったら動画作成だけど、素材を取る人がいて、編集する私がいて、それを見てくれる人がいて、それに広告価値を見出す人がいる。一人では出来ないんだよ。きれいごとだけどね? だからこそ巧も人を頼っていいのよ、ど?」
人と人。的な話か。
頼る…………。
クラスメイトとかには無理だけど……親父とかかすみくらいには悩みを伝えてもいいのかもな。
「……頑張ってみる」
「ううん、頑張ることを頑張らなくていいの、少しずつ…………ね? 意識だけでもしてくれたらいい、はなしだから、さ。それで変わると思うの」
もう少し気楽に、か。
「……じゃあほどほどに、やってみるよ」
「いいね、ほどほど!」
かすみがにこにこと笑う。
悩みを相談するだけでこの笑顔が見れるなら、それはそれでいいかな。
「じゃあ最後のお願い!」
「あ」
そっか3つか。
もう終わった気になってた。
「あ、最後のやつ忘れてたでしょ!これもさっきのと同じくらい一番大事なのに!!」
まじ?
今の話よりも?
「さてさて、それではごほん」
わざとらしく咳ばらいをし、溜めにため、そして、
「……ホテルいこっか」
めちゃくちゃいい笑顔でそう言い放った。
「ほ、ホテル?」
「そ、ホテル! 昨日会えてなかったからなんというか、こうですね……ええ」
しかし大人然としたのも最初だけ。
そこからは一気にしどろもどろに。
少し気恥しそうにしきりに眼鏡を触ったり髪を触ったり。
「…………俺も行きたい気分だし……いこっか」
「うんじゃ車のって?」
正直そのまま車でお互い致したかったわけだが?
さすがにお互い自重して、胸とかを服の上から触るだけにとどめておいた。
まぁそのあとめっちゃ個室露天風呂で○ックスした。
今日も負けた。
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次の日。
土日ということもあって昼には家に帰った。
一応昨日夜ラインしたとはいえ、親父には一言言われた。
まぁあれは俺も悪いし、粛々と受け入れた。
「昨日は悪かった、親父の気持ちも考えないで一方的にはなしてしまって。でもあくまで俺の考えはあれだから」
そこだけはちゃんと言っておかないと。
「ああ、分かってる。俺も自分の気持ちつたえるのに言葉が足りなさすぎた。申し訳なかった。俺もあの後一人で考えたんだが、そういえばなんにも説明してないな、と思ってな」
まぁそれはそうだ。
かすみもいってた、言葉が足りな過ぎるって。
「母さんの件な、離婚どうこう。俺はさ大前提としてあいつを好きだから離婚したくないんだよ。だから浮気を信じたくなくて、な。調べたんだよ」
し、調べた?
「ど、どうやって?」
ま、まさか。
「ああ、探偵にお願いした。まぁもし本当に新しい人がいたら俺は幸せにできなかったと思って、そのままにするはずだった。ただその調査結果からいえば、白。母さんは浮気はしてなかった。でも探偵を雇ったのは2-3週間程度だし、その間会ってなかったパターンもあるからな。昨日はあんな濁した言い方になってしまった」
「う、浮気はしてなかった?」
「たぶん、な。ただそっからなんだがなぁ。浮気してないのは分かったんだが、じゃあなんで離婚したいんだって話になるだろ?理由は思いついちゃうのが悲しい点なんだけど」
本当に悲しいなそれは。
「ならなんであいつはあえて恨まれるようなことをしたのか……」
それも探偵で調べたら何かしらきっと。
「うん、ただ探偵代金ってバカにならなくて値切ったりしてたらそこの背景聞けなかった」
「おい!!そこ大事なとこなんじゃないか!!」
まぁそうなんだがな、と親父は困ったように頭をかき。
「なんというか怖くなっちゃってな。ただ愛想衝かされただけって言われるかもしれないしな。まぁこうなったんだから覚悟しとけってことでもあるんだが」
そうだ!と強くは言えなかった。
俺も母さんを前にして、何も言えなかったから。
人はいざって時にはなかなか足が出ないもんだ、中学の時、かすみの時だってそうだったから。
「一応行動履歴聞いても特段変なところはなかったし、な」
それ以上は追加金って言ってたから断った、と。
行ったところはスーパーに、服屋に、雑貨店、それから電気屋に、家具店、病院、本屋。
どれも全部行きそうな場所だ。
「でも昨日のお前の想いを聞いて俺も決めたよ、もうけりをつけるって。足を進めるってな」
前進……か。
それつまり?
離婚?
「ああ、離婚じゃねぇぞ?あいつと話合いにこっちから行く!いつまでも待ってらんないから、こっちからカチコミ行くぞ」
「か、カチコミ?」
「あいつが今いる場所ももう分かっている。だから年末行くぞ!俺ら二人でリベンジしに!」
カチコミがきまった。
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昨日出さなくてごめんなさい!
寝正月でした!
今年も応援コメント、★などもじゃんじゃんよろしくお願いします!
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