第85話 よく頑張りました

 俺が話し終わるころには、レインボーブリッジを既に渡っていた。

 深夜に渡るレインボーブリッジはめちゃくちゃ雰囲気があって。


 今更だが、レインボーブリッジを封鎖して、ドラマ撮影したの最高にすごいよな。

 やっぱ昔のドラマは面白い、と思ってみみたり。


 ここはこんな愚痴じゃなくて、普通のデートで行けば最高にお洒落なのかもな。


 車は止まり、二人して東京湾が見える砂浜へ。

 夜の砂浜は潮の匂いがして風が肌寒い。

 

 「そんなことがあったんだね…………」

 

 「…………そんなことがあったんです」


 「そりゃ巧が怒るのも無理ないね! 巧のお母さんも流石にそこまで言う必要はないと思うなぁ! お父さんとの離婚の仲介に子供を立てようとするのも明らかにおかしいよ!」 


 え、えぇ。

 かすみのことだから、俺を落ち着かせようとしてくるのかと思ったら、逆に憤慨したよ。


 怒りを発散するように、海に向かって小石をえいっと投げながらかすみは……


 「お義父さんもお義父さんだよね?! ただ謝るだけなら誰だって出来るんだから、これからどうするつもりなのか、とかが不透明だからこっちはむしゃくしゃしてるんだよね! 離婚しないなら離婚しない理由をちゃんと教えてほしいよね!」


 止まらない止まらない。

 かすみが止まらない。

 進撃してます。


 「そ、そうなんだよねぇ」


 「あげくの果てに、好きだからって。確かに少年漫画とかなら許せるのかもしれないけどこれは現実なわけで。愛しているからこそ、今後どうしたいのか。ってのは教えてほしいよね」


 「う、うん」


 「あ、巧。なんでかすみがこんなに怒っているんだろう、って少し思っていない?」


 俺の気持ちを見透かしたかのようなかすみの言葉。

 本当によくわかっていらっしゃる。


 「ま、まぁ少しは」


 「巧、私の巧への愛をみくびっているね? 巧が傷ついていたら私は悲しいし、苦しんでも悲しいの。怒っていれば私も一緒に怒るし、あなたが楽しんでいれば私も嬉しい。…………ちょっと重いかな?」


 たははぁとこちらを窺うように、ほんのり笑う眼鏡美女。


 「うーん重いのか、どうかは正直分かんないけど、俺は嬉しいからそれでいいんじゃない?」


 「そっかそっか。まぁ話少しずれちゃったけど、だから私もイライラしたのよ!だって私の巧が傷ついてるんだから!」


 ぷくっと怒ってますと表現するかすみ。

 普通に可愛い。

 そして…………


 「ありがとう…………」


 「ううん。でもそれはそれとして最後のお義父さんの一言……気になるよね」


  最後の…………

  ああ。


 「浮気していないってやつね」


 「うんそれ」


 「でも浮気については手紙にも書いてあったし、俺実際に前に見たよ?お茶の水で男とタクシー乗ってるの」


 「うんそうなんだけど…………。でも普通に考えたらわざわざお義母さんが浮気のことを書く必要はないんだよ。だって離婚調停とかになったらそんなの絶対不利になるでしょ? 浮気してたなんて言ったら、生々しい話だけどさ。 お義父さんへの恨みつらみだけでも書けばいいと思うんだよ」


 …………確かに。

 そう言う視点で見ればそうだ。

 離婚調停のことまで考えれば、言わない方がいいにきまってる。

 

 「でも俺が見たお茶の水の時の男は…………ってそうか。一緒にいたからって浮気相手とは限らない、と。ましてホテル街から出てきたわけでもない。ただタクシーに乗り込んだだけ、か」


 「そうだね。それ自体は浮気を示すことにはならないかな、って。まぁ本人が言っているから巧は無条件に信じたんだろうけどね……」


 そう言われればそうだ。

 …………なんで俺は気づかなかったんだ。


 「まぁ私がこう思ったのも、全部状況を客観的に聞いたからだからね。いざ当事者になって、今の出来事を経験したらまず間違いなく私も気づかない自信あるよ」


 「うん……」


 「そうしたらこの間お義母さんにあった時に、浮気相手の事聞いて一瞬間があったのも、ある程度理解できるんじゃないかな」


 浮気相手が……いない可能性……か。


 「……だったら親父の言葉もあながち間違いでもない……か」


 「そう考えたらそうだね~」


 「……仮にそうだとしたらなんであの女はそんな嘘をついたんだろ?」


 なんか理由があるのか?

 そもそもあの女がそんな細かい嘘つけるとも思えないからなぁ。


 かすみの答えを待っていると……。

 かすみはあっけらかんと一言。

 

 「ぜーんぜんわかんない!」


 眼鏡をくいってして決め顔でいった。


 「私の2時間ミステリーの経験からいえるのはこれくらいなんだよ? 頭は巧の方が絶対にいいしね。 それにこれはあくまで数%の可能性。 ストレートに考えたら、ただ新しい人と幸せになりたくて、お義父さんなら裁判にしないって考えただけとも言えるからね。 でもこういうこともあって、確証もないからお父さんは離婚しないって言ったのかもしれないね~」


 親父には親父で見えた別の視点ってことか。

 確かに客観的には見えてなかったかもな。今回の事。


 「お義父さんの気持ちで考えたら、さ。 巧で考えたらわかりやすいかもだけど。こんなこと絶対にありえないけど、もし私が浮気したから出てくって言って、消えたらどうする?」

 

 「そんなの信じないし、何か理由があって出てって思うかなぁ……」


 「…………多分そう言うことなんじゃないかな? お父さんも根本にあるのは」


 愛してるから、かぁ。


 「そっかぁ。そりゃそうかぁ…………結局は俺は親父の為と言いながら俺の気持ちが優先していたったことか」


 親父には申し訳ないことしたな。

 すべきだったのはちゃんと話を聞く、ってことかな?


 あくまでこれは夫婦二人の話だったのだから。


 ……あぁ俺は俺が嫌いだ。

 親父の為と言って、自分の意見ばっかを押し付けた俺が。

 

 「巧、今絶対自分の事自己嫌悪してるでしょ?」


 「そ、そんなことは……」


 「こーら嘘つかないの!顔に書いてあるよ?」



 かすみがやさしい笑顔で俺を抱きしめながら言う。


 「巧は悪くないよ、これは。大前提で二人がちゃんとしなきゃいけないことだと思うし、その後もお義母さんも巧に言っていい事じゃないと思うし、お義父さんもあまりに説明が足りな過ぎると思う! こんなの一人で抱え込めるわけないんだよ! 逆に巧は良く一人でなんとかしようとしたと思う。だから私が言うことは二つ」


 二つ?


 「…………一つは、もっと早く相談しなさい!」


 これはさっきも言ったよね?

 だからもう一つとかすみは指を折り、


 「うん」


 「じゃああと一つはぁ……」


 かすみはお互いの息を感じるほどに、顔を近づけ、


 「……巧はよくがんばりました」


 そのままレインボーブリッジを背景に触れるようなそんな優しいキスだった。

 

――――――――――――――――――――――――――


 あけましておめでとうございます。

 今年もよろしくお願いします!!


 新作もぼちぼち出していけたらと思ってますんで今年も応援コメント、★などもじゃんじゃんよろしくお願いします!

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